季節の行事や歳時記と結びついて美しく、そしておいしく表現する和菓子。7月の1カ月をかけてさまざまな神事・祭事が行われる祇園祭のハイライトは17日の前祭(さきまつり)の山鉾巡行です。その前日16日の「宵山」(よいやま)までの数日間しか売らないお菓子があります。そんな祇園祭限定の和菓子をご紹介します。
祭りのメーンストリート四条通には、東から長刀鉾、函谷鉾(かんこほこ)、月鉾、郭巨山(かっきょやま)と美しく雄壮な山鉾が立ち並びます。その最も西に立つ四条傘鉾の近くに店を構える1803年創業の「亀屋良長」(京都市下京区)では祇園祭の時期、4種類の限定和菓子を売り出します。8代目の吉村良和さんは「祇園祭の思い出といえば、月鉾のテントの売店で宵山だんごとちまきを売ったこと」と話します。中学生のころ、火事で途絶えていた四条傘鉾が復活し、お囃子をやっていたこともあるそうです。
1803年創業の「亀屋良長」では祇園祭の時期、4種類の限定和菓子が店頭に並びます
「宵山だんご」は、白みそ入りのこしあんを求肥(ぎゅうひ)で包んだ餅菓子。八坂神社の神紋が焼き印されています。三角屋根の箱に入った団子は鉾に提灯がともされた様子を現しているそうです。
祇園祭で各山鉾で販売される厄除け粽(ちまき)は、お守として玄関などにつるしておくもので食べられません。こちらの「ちまき」は、厄除けや招福の意味もある上に、小麦粉と米粉と葛で作られたういろうのちまきなので、おいしく食べることができます。5本が1束になっています。
「ほこ調布」は、鉾の屋根をかたどった焼き菓子です。包んだ形が布に似ていることから、かつて租税として収めていた調(献上布)に見立てて「調布」というそうです。卵と小麦粉でできたカステラ生地の中に、粒あんと求肥の2種類の味が用意されています。
祇園祭の「京干菓子祇園祭」は、祭りにちなんだ鉾などをモチーフにしたお干菓子がかわいい竹かごに入っています。ちまきと宵山だんごは月鉾と四条傘鉾でも販売しているそうです。
亀屋良長の[宵山だんご]
亀屋良長の「ほこ調布」
亀屋良長の「ちまき」
亀屋良長の「干菓子 祇園祭」
「大極殿」(京都市中京区)の「吉兆あゆ」を売っているのは別名「鮎釣山」と呼ばれる占出山(うらでやま)。カステラの生地で求肥を包み鮎をかたどった焼き菓子です。占出山は、神功皇后が戦争の勝敗を釣りで占ったところ、鮎が釣れる「吉兆」があったという故事に由来しています。
占出山では「吉兆あゆ」が売り出されます
13日から16日に茶席が設けられる菊水鉾では、「したたり」というお菓子が供されます。寒天にざらめや、水飴、黒砂糖を加えて煮詰め、棹(さお)に流して固めた冷菓です。菓名は鉾の伝説で菊からしたたる露を飲み700年生き続けた少年「菊慈童」(きくじどう)にちなんでいます。
菊水鉾の茶席で供される「したたり」
さらに、年に一度宵山の16日だけに売り出す貴重なお菓子が柏屋光貞の「行者餅」。店の先代が山伏として奈良・大峰山で修行中に、夢の中で授かったお告げをもとに作られたと伝えられてます。小麦粉の生地を薄く焼いた皮に、餅とさんしょうを混ぜた白みそを乗せて折りたたんだもの。修験者が身にまとう法衣を畳んだ形に似せて作られています。毎年主人が大峰山での修験を行い、斎戒沐浴をしてから作るそうです。この行者餅は、今年までは予約のみの販売でしたが、来年からは予約の受付をやめ、16日の店頭販売に戻すそうです。
宵山の16日だけに売り出される柏屋光貞の「行者餅」。この日は朝早くから行者餅を求める人たちの行列ができます
柏屋光貞の「行者餅」
山鉾巡りも楽しいですが、祇園祭を彩る和菓子を食べ歩くのもまた趣がありますね。
明日はいよいよハイライトとなる山鉾巡行です。昨年は台風が来る中での巡行でしたが、今年はお天気に恵まれるといいですね。