世界各地で創作を続ける16名の女性アーティスト。その全員が、なんとキャリア50年を超える70歳以上!彼女たちのエネルギーが詰まった展覧会が開催中だ。
Mishima Kimiyo
命がけで遊んでるっていう感じですね、一生。
その遊んでる感じでずっと行ってますから、苦にならない。
―― 三島喜美代
《作品21-A》2021年は、廃品屋で見つけたタンクが経年劣化で底が抜けるのを見て、「新聞を入れてひっくり返したら面白い」と取り組んだ新作。後ろのタンクには、三島がつい集めてしまったという廃品の数々。アメリカに行ったときは古新聞やゴミなどを手当たり次第トランクに詰めて持ち帰ったという。「今も淀川の土手を歩いていて、何か面白いものがあったら拾って帰ります。以前、何か不思議な形の鉄製の塊を重いのに持ち帰ったら、それは車止めだといわれました(笑)」。本展では、この新作のほか、古新聞を高く積み上げた陶のインスタレーション《作品 92-N》や、コラージュと油彩、アクリル絵の具を用いた初期の平面作品も出展されている。
薄く引き伸ばした陶土に新聞を転写して焼く独自の技法によって、情報を重みのある物質として現実空間に出現させる。ほかに、空き缶やダンボール、箱、コミックブック、ゴミなどを陶で制作した作品も。
そのエネルギーは
どこからやってくるのか?
88歳になる現在も、精力的に制作を続けている三島喜美代。つくり続ける。その原動力は、どこにあるのだろう?
「好奇心としつこさ、それだけですね。これまで一度も失くなったことがないんです」と三島。いつも何か”面白いこと”を考えていて、昔を思い出したり、後悔したりする時間はないという。
今回の新作《作品 21-A》は、ずいぶん前に廃品屋でどうしても欲しくなって持ち帰ったタンクと、1971年からモチーフとしている陶製の古新聞を組み合わせている。
「新聞をモチーフとしたのは、世界に情報が氾濫し始めた頃。情報に飲み込まれて自分を見失ってしまうような恐怖を覚えたから。現代は、インターネットでさらに情報化が進んでいますが、これは目に見えないもの。押し寄せる情報を作品として可視化するのは、やはり新聞だろうって思います。今回の新作は、試作のときに、本物の新聞を丸めてタンクに入れ、ひっくり返してみたら、そこそこ面白いものができたのでこれで作品になるかと思ったのですが、やはり陶のほうが緊張感が出ると考え直したんです。そのときに丸めて入れた新聞紙を広げて数えたら130枚だったので、130点つくろう、と。体はしんどかったのですが、集中してやりました(笑)」。
大阪・十三のアトリエで、毎日立ったまま作業し、窯で焼き続けた。体が悲鳴を上げても、途中でやめようとは思わなかったという。
「中途半端では作品にならないと私はいつも思っているんです。意外としつこいんですよね。美術館で実際に展示したら、陶の新聞がいい具合に広がってくれて、ホッとしました」
子どもの頃から、さまざまな疑問が湧き上がるのを止められず、周囲を質問攻めにした。それが、絵を描くと不思議と静まったという。けれども“女の子が絵なんて”と母に禁じられ、父の手助けを得て、こっそり描き続けた。その“しつこさ”が、いまにつながっている。
これからも、手足が動く限りは創作を続けると三島は言う。
「寝たきりになっても、頭だけは動かして、現代音楽に挑戦したいわね。私、好きなんですよ、現代音楽」
彼女の創作のエネルギーは、きっと枯れることがないのだろう。
Profile
大阪・十三で酒屋を営んでいた両親の下に生まれた。高校卒業後に通った絵画教室で、のちに夫となる三島茂司と出会う。70年代から陶にシルクスクリーンで印刷を施す立体作品を制作。美術や工芸といった枠組みに収まらない独自性で、近年、現代美術としての評価が高まり、世界中のアート・マーケットでも注目されている。
Information
アナザーエナジー展:
挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人
会期:9月26日(日)まで開催中
開館時間:10:00〜20:00(最終入館19:30)
※火曜日のみ17:00まで(最終入館16:30)
※当面時間を短縮して営業。最新情報はWebサイトにてご確認ください
会場:森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)
出展アーティスト:エテル・アドナン、フィリダ・バーロウ、アンナ・ボギギアン、ミリアム・カーン、リリ・デュジュリー、アンナ・ベラ・ガイゲル、ベアトリス・ゴンザレス、カルメン・ヘレラ、
キム・スンギ、スザンヌ・レイシー、三島喜美代、宮本和子、センガ・ネングディ、ヌヌンWS、アルピタ・シン、ロビン・ホワイト
便利で安心な森美術館のオンラインチケットシステム
森美術館に行くなら、この春から新たに導入されたチケットシステムを活用しよう。専用オンラインサイトや「ヒルズアプリ」からチケットを事前購入すれば、QRコード認証でスムーズにダイレクト・イン入館ができる。また、美術館入り口には無人券売機も設置。キャッシュレスにも対応し、非対面、非接触の安心して鑑賞できる環境になっている。
専用オンラインサイト
https://visit.mam-tcv-macg-hills.com
ヒルズアプリ
https://preview.page.link/hillsapp.page.link/app_installer
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