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生理の話、どうしてる? by 桃山商事[思いやりの基礎知識]


 恋愛やジェンダーにまつわることを談議している恋バナ収集ユニット「桃山商事」。これまで男性の理解を広めるためにさまざまな発信をしてきた彼らに、生理をみんなで理解することについて、男女それぞれの目線から語ってもらった。


中央・清田隆之(代表)
 1980年、東京都生まれ。桃山商事のまとめ役。恋愛やジェンダーに関する文筆業のほか、女子大の非常勤講師という一面も。近著に『自慢話でも武勇伝でもない「一般男性」の話から見えた生きづらさと男らしさのこと』(扶桑社)がある。
@momoyama_radio

右・森田雄飛(専務)
 1980年、東京都生まれ。恋バナ収集に情熱を燃やす理系男子。桃山商事で専務を務めつつ、普段は会社に勤務。著書は清田代表との共著『生き抜くための恋愛相談』(イースト・プレス)など。

左・ワッコ(係長)
1987年、千葉県生まれ。伸びすぎた身長とあふれ出るワードセンスが魅力の、新世代センターエース。普段は会社員として働いている。


清田:桃山商事として初めて生理について話したのは、かれこれ9年前の「二軍ラジオ」。当時は男3人のメンバーで、『男子が学ぶ生理のハナシ』と題して、生理に関する”男性の無理解”について考えた回で。

森田:当時まわりの男性に取材したら、「セックスできない日」とか「彼女の体調が悪くなる日」くらいの認識しかない人が多かった。かくいう自分も、そのとき産婦人科医の先生が書いた『月経のはなし 歴史・行動・メカニズム』(中公新書)という本を読んで初めてちゃんとした知識に触れたんだけど。

清田:とにかく初めて知ることだらけで驚いた…。あの本で認識に変化が生まれた部分はあるよね。

ワッコ:同じ女性でも個人差があって、私も生理については自分が感じてることしか知らないから、桃山商事の活動でほかの人の意見やエピソードを聞いて、いろいろ考えるきっかけになりました。

森田:普段の生活で女性から生理の話を聞くことってまずない。男にとって生理のあれこれは、「自分から知ろうとしないと、知り得ないこと」だなと思う。

ワッコ:女同士でも、頻繁に話に出るわけではないですね。私のまわりでも、友達と遊ぶ約束をしてる日に「生理痛ひどいから行けない」と緊急連絡が来たりすることはあるかも。ただ最近は、月経カップや吸水ショーツとか、フェムテックアイテムが話題だから、それがきっかけで情報交換することは増えた気がします。

清田:月経カップの話題は、男の自分でも耳にする機会が増えたかも。ただ、情報として知っても具体的にどういうものかを理解するのは難しいから、ワッコがリアルな言葉で話してくれるのは勉強になってます。

ワッコ:月経カップ、友達に勧められてこの前初めて使ってみたんですけど、慣れないせいか指が届かないところまで入っちゃって、めっちゃ焦りました。

清田・森田:えぇ⁉

ワッコ:すぐとれましたけどね(笑)。

清田:ワッコは笑って話すけど、こうして実話として詳細を聞かないかぎりわからない感覚かも…。

森田:そういえば清田は以前、昔の恋人と生理のことを「日の丸」って隠語で呼んでたよね。

ワッコ:なんですかそれ(笑)。

清田:ライトな呼び名をつけようってなったの。冗談みたいなノリで話せるようになったらいいねって。それで「日の丸」ってのもどうかと思うけど、生理を気軽に話せるきっかけにはなったかもしれない。

ワッコ:生理を含め、女の”下半身ネタ”ってタブー感がつきまといますもんね。

清田:タブー視するのもどうなんだって話だよね。

森田:もちろん、超パーソナルなことだから、無理に話す必要は全然ないんだけど。ただ、女友達が生理のことをサラッと話してくれたりすると、信頼されている気がして、ちょっとうれしいかも。

清田:女子大で非常勤講師をしているんだけど、授業中うずくまったりして、明らかに体調悪そうな学生が毎回何人かいるのね。「生理?」なんて聞くことは絶対ないけど、「具合悪いときは遠慮せず言ってください」「寝ててもいいので」と伝えるようにしていて。

森田:本来であれば、生理って言わなくても「体調が悪い」だけで休む理由としては十分だよね。だから「生理休暇」っていう名前も、「体調が悪い休暇」とかにしたらいいのに。

ワッコ:たしかに。個人的には生理休暇っていう制度は結構難しいと思ってて…。生理の症状って重くない人もいれば、ベッドから出られないという人もいてさまざまだし、先月は休暇を取ったのに今月は取らなかったら、じゃあ我慢できたんじゃないの? と思われてしまう可能性もある。いっそのこと、手当としてお金を支給してくれればいいのに。生理用品だって毎月7百円くらいはかかるし、低用量ピルの処方は保険適用外のことが多いから毎月さらに数千円。生理って結構お金かかるんですよね。

森田:生理休暇は権利だけど、行使するしないは自己責任になってしまうんだよね。

ワッコ:生理に「自己責任」という感覚をかぶせられるのって本当に恐ろしい。

清田:そもそも「生理」って言葉は月経の婉曲表現で、「生理現象=生命を営むことに伴って生物体に生じる諸現象」のひとつなわけだよね。生理現象は、たとえば呼吸や排泄、睡眠や代謝、咳やくしゃみと同じこと。こういうものに自己責任を問うこと自体がおかしい。しかも、月経とは妊娠の準備状態をつくり出すために起こる生理現象だし、我々が生まれるために必要なこと。性別問わず全員に関係のあることなんだよね。

森田:それなのに、社会的な不利益は女性だけが被っている。『月経のはなし』の帯には「男女最大の格差」って言葉があるけど、本当に不条理だと思う。

清田:会社とか学校とか、制度的なアップデートはもちろん必要だと思うけど、我々男性も、身近な他者としてコミュニケーションを取りながら最適な対応を模索していくことが大事ではないだろうか。

森田:ある女性が教えてくれたエピソードなんだけど、彼女が病気で緊急入院することになったときに、たまたま生理が始まってしまったんだって。それで旦那さんに「着替えと一緒にナプキンを持ってきて」と伝えたら、ナプキンを1枚だけ持ってきた。それで彼女は、旦那さんの生理に対する理解の浅さに驚いたと言っていた。

清田:おそらく「替えのパンツ」みたいな認識だったわけだよね。

森田:多分、1枚では足りないということが頭にもよぎらなかったんだと思う。

ワッコ:聞けばいいだけなのに…。

清田:自分もこういった活動をしてなかったら同じ認識だった可能性もあるし、その旦那さんのことを偉そうに笑うことはできないかも。そう考えると、知ることはもちろん必須だけど、それと同時に「わからない」という前提に立ち続けることが重要かもしれない。ワッコが言うように、わからないことがあれば聞いて確認するのが基本なわけで。とにかくこの社会のシステムには、心身ともに健康的な人間(しかも男性)を前提として成り立っている部分が間違いなくある。個人に我慢を強いるのではなく、そういう社会構造のほうがおかしいんだって発想を持つことが第一歩になるんじゃないかと思う。

ワッコ:生理中の人が痛み止めを飲んで我慢するしかない、という社会は変えていかねばですよね。

森田:社会の半分は男性なわけで、やっぱり我々男性が基本的な知識なり対処法なりを身につけて、他人事にしない姿勢が重要だね。ただ、男性に「理解してますよ」って顔をされること自体がイヤという女性もいるってことは、ワッコが桃山商事の著書『どうして男は恋人より男友達を優先しがちなのか』(イースト・プレス)の中で紹介していたよね。

ワッコ:はい。友人の女性が”俺は生理をわかってる感”を出してくるパートナーに怒ってました。

森田:その一方で、恋人から「そっとしておく」系の対応を取られると悲しくなるという女性の意見もあったよね。

ワッコ:どう対応してほしいかは人によって異なるし、その日によって体調も変わるので、やはり相手に相談するのが吉かもしれませんね。

清田:自分もかつて、旅行中に生理になった恋人を延々と歩かせてしまったことがあるので反省しかありませんが…。わかった気になることも、わからないと開き直ることもせずに、女の人たちが具体的に抱えている困りごとに耳を傾けていく。そういうことの積み重ねが、ひいては政治や社会設計という大きなものを変えていくことにつながっていくのかもしれないね。


BOOK

『どうして男は恋人より男友達を優先しがちなのか』
著:桃山商事 
イースト・プレス 1650円

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トークの中でも登場した、昨年発売された桃山商事の新刊。恋バナ×ジェンダーをテーマとして、これまで語られてこなかった恋愛にまつわるアレコレを語り尽くした“NEO恋バナ”が凝縮。


男性は、生理をどうとらえている?

 男性が生理について理解を深めることが課題解決の鍵。現状では、男性の生理に対する認識はどのようなものだろう。

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 男性の回答を見ると、生理に関する正しい知識を得る機会が少なく、十分には理解が進んでいないのが現実。一方で、多くの男性が女性特有の健康課題について、社会課題として積極的に解決すべきものだととらえている。

*このデータは、「ルナルナ」による女性の体と心の理解浸透プロジェクト「FEMCATION白書2021」より抜粋
調査対象:全国15歳~49歳の男性計1000人
調査方法:インターネット


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