メタバースで長時間を過ごす。そんな人は、もう実際に存在している。アバターをつくり込み、よりリアルな五感の再現を目指して、メタバースの住人たちは、最新のデバイスを身にまとう。メタバースのヘビーユーザーであり、VRデバイスの開発者であるShiftallの岩佐琢磨さんに、メタバースで生きる魅力について話を聞いた。
Shiftall Inc. CEO
岩佐 琢磨さん
1978年生まれ。2003年に松下電器産業(現パナソニック)にてキャリアをスタートさせる。2008年に株式会社Cerevo(セレボ)を設立し、代表取締役に就任。2018年にパナソニック完全子会社となる株式会社Shiftall(シフトール)を設立し、さまざまなloT機器の開発・販売を手がける。今年3月に『VRChatガイドブック〜ゼロからはじめるメタバース』(双葉社)を刊行。
そこに誰かがいるから
メタバースは面白い!
岩佐さんがメタバースで過ごす時間は、ときに約6時間。眠るときもHMDを装着したままな日もあるという。岩佐さんが感じている、メタバースの魅力をまずは聞いてみた。
岩佐:メタバースで生きることの醍醐味は、“そこに誰かがいる”ことです。上級者たちは、HMDをつけたまま睡眠もします。僕もそのひとりですが、すごく快適で楽しいんですね。夜ひとりで寝るのは寂しいじゃないですか。でも、メタバースへ行けば誰かがいるんです。安心感もありますし、修学旅行で友人と同部屋で一緒に寝るような、あの楽しい感覚があります。
女性であれば、お気に入りの服を着て、ばっちり決まったメイクをして出かけたときに、友人に褒めてもらってうれしいと感じた経験があると思います。これと同じようなことが、メタバースでも起こっています。メタバースの中の自分の姿はアバターですが、アバターは体型や髪型だけではなく、メイクも自分好みにカスタマイズすることができます。じつは、僕のアバターも女性の姿をしています。せっかくだからとメイクの研究をして、アバターのメイクを変えてみたところ、メタバースの友人たちがその変化に反応してくれるんです。褒めてくれたり、アドバイスをしてくれたり、こうしたコミュニケーションがすごく楽しい。もっと素敵な自分になりたいとも思えますよね。現実でも感じる、楽しさや幸せ、安心感といった満たされる感覚や、人とのコミュニケーションの楽しさを、メタバースでも同じように感じることができます。
メタバースの住人の
ニーズを叶えるデバイス
岩佐さんがつくりだすVRデバイスは、一見するととてもユニーク。そのプロダクトは、メタバースの住民のニーズから、生まれたものだという。
岩佐:仮想空間の中での生活を楽しんでいる人たちは、日本国内では数千人以上。彼らはとても充実しています。僕は、そんなメタバースの住人に、より快適で楽しい生活を送ってもらうためのデバイスをつくりたいと思っています。たとえば、彼らはフルボディ・トラッキング(フルトラ)ということをしています。フルトラとは、リアルな身体の動きをとらえてアバターに反映することで、仮想空間でよりリアルな身体表現をするために必要なことですが、これをするためには大がかりな装置が必要でした。つまり、個人が導入するにはとてもハードルが高かった。だから、もっと手軽にフルトラを実現するために「HaritoraX」を開発しました。「mutalk」は、音が漏れにくいマイクです。家族やお隣さんといった周囲を気にせず、大声で会話をすることができます。HMDについては、リアルな没入感を感じるための高解像度と、長時間使い続けられるように軽量性や装着感を追求しています。いまあるHMDも、昔に比べたらずいぶん軽量化されていますが、やっぱりまだまだ重いんですよ。数時間つけていると頭がすごく痛くなる(笑)。
そんな感じで、僕自身が日々メタバースで生活し、そこにいる人のニーズを聞きながら製品開発をしています。メタバースで本当に必要とされているハードウエアや、それに付随するソフトウエアやサービスを僕らはこれからもつくっていく予定です。
着せ替え人形とドールハウス
メタバースの魅力を、リアルな体験として感じ取っている岩佐さんによると、その楽しみ方は、おままごとや着せ替え遊びのようなものを想像するとわかりやすいと教えてくれた。
岩佐:子どものころ、着せ替え人形やドールハウスで遊んだ経験のある方は多いと思いますが、メタバースでは、あなた自身がその世界のひとりになれるんです。自分の好きなように洋服や髪型を変えて楽しめます。家だって、好きな形のものをつくれるし、家具もお気に入りのものを自由に配置することができる。しかもそれが、とんでもないレベルでできる。たとえば800坪の大豪邸だって建てられてしまうし、内装も細部までものすごく細かくつくり込むことができます。こんな楽しいことってないはずです。子どものころに夢見たことが、メタバースでなら実現できるんです。
現実世界でいちばん不幸せなことは、苦しくてもそこから逃げられないし変えられない、という状況に無理やり追いこまれることだと僕は思っています。つらい状況にあってもその場から動けないなど、八方塞がりな状況に追い込まれる人もいると思うし、その環境から脱出する術がない人もたくさんいるのではないでしょうか。
そんな、どうしようもない現実で生きづらさを感じている人が、メタバースに別の世界を見つけて生きていくことは、僕はいいことだと思っています。メタバースという新しい世界の存在は、きっとそんな人たちに大きな幸せをもたらしてくれるはずです。
リアル100%の生活を、バーチャル50%にシフトしたっていい。その選択肢はあって然るべきものだと岩佐さんは話してくれた。メタバースは、豊かな人生を送るための新しい手段のひとつなのかもしれない。
発見!メタバースの住人!
Shiftallが開発したメタバースのフル装備!

■超軽量のVRヘッドセット
MeganeX
VRヘッドセットをつけて、いざメタバース空間へ! といっても、長時間つけていると重さが気になる。そんなユーザーに向けて、軽さを追求して生まれたのが「MeganeX」だ。両目5.2Kと高解像度なので、より鮮明な映像とともに、没入感のあるVR体験ができる。10万円未満(販売予定価格)
■自分の声をシャットアウト!
mutalk
メタバース空間で友達と話したり、ライブに行ったりするなら、やっぱり盛大に声を出したい。音漏れ防止機能がついたBluetoothマイク「mutalk」なら、声が周囲に漏れないので、メタバース空間にいるときも安心。存分に声を出して、住人とのコミュニケーションを楽しもう。2万円前後(販売予定価格)
■自分の動きをアバターが再現!
HaritoraX
アバターが自分そっくりに動いてくれたら…。そんな願いを叶えてくれる「HaritoraX」は、SteamVRに対応した腰や足の動きをモーション・トラッキングしてくれるデバイス。VRゴーグルを組み合わせることで、無線でのフルボディ・トラッキングを可能にしたすぐれもの。2万7900円
■メタバース空間の温度を感じられる
Pebble Feel
なんと温度まで感じることができるのが「Pebble Feel」。小石(Pebble)のようなサイズ感のウェアラブルデバイスが温かくなったり冷たくなったりすることで、雪山や暖炉がついた室内など、メタバース内の環境に応じた温度を実際に肌で感じることができる。2万円前後(販売予定価格)

各デバイスでとらえた身体の動きを、アバターに反映。足を曲げてしゃがんだり、飛び跳ねたりといった全身の動きもアバターで再現できるようになる。よりリアルな身体表現をアバターにさせることにより、コミュニケーションもより豊かなものになるのだという。

バーチャル空間での生活を楽しめる無料アプリ「VRChat」。その基本操作から上級者向けの楽しみ方、この世界で活躍する有名人やお店を経営する人のインタビューなど、VRChatを使ったメタバースライフのイロハを知れる1冊。
『VRChatガイドブック 〜ゼロからはじめるメタバース』
著:岩佐琢磨、まつゆう*
双葉社 1980円
