よりよい防災を考えるために[みんなで考えよう、防災のこと]


 もしも、自分が被災者になってしまったら。そのとき、その場で最善の解決策を導く方法を学ぶために、『被災地デイズ』と「クロスロード」は生まれた。リッジラインズでは、この「正解のない問いに向き合うこと」に着目し、日々の業務にもいかしているという。なぜ、コンサルファームが注目しているのか?そんな点にも触れながら、その中身を見ていこう。


Imagine with Book

こんなとき、あなたならどうする?
正解のない問いに考えを巡らせる1冊。

 災害時にどんな行動を取るべきか、学校での避難訓練などで学んだことがある人もいるだろう。「地震が起きたら机の下に隠れる」「倒れている人がいたら周りに呼びかけてAEDを起動させる」。けれど、もし外出中に地震に遭遇したら? 居合わせた場所にAEDがなかったら? 矢守先生は、もしもの事態を想像することが大切だと話す。

 「日本人が防災のことを考えるとき、『災害が起きたときの正しい備え方を知っておこう』といったメッセージ一色になってしまうことが多いように感じます。しかし実際の被災地では、まったく想像していなかった状況で被災することや、習ったスキルをいかせない状況も起こり得ます。だからこそ、もしもの事態に対して、そのときその場でみんなで正解をつくっていくことが大切です。『被災地デイズ』には、問いは載っていますが正解は載っていません。解決策を創造する方法を学ぶための1冊です」

 この本には、災害が起きた直後、数日後、数カ月後、数年後…と続いていく被災地の日常と、そのなかで遭遇するさまざまな問いが書かれている。Aを選ぶか、Bを選ぶか。分かれ道に出合うたびに思考を巡らせ、自分なりの答えを考えることが求められるのだ。

 リッジラインズの今井さんは、この本との出合いについて次のように話す。

 「仕事をしていると唯一無二の正解を探そうとしてしまいがちですが、変化の激しい現代では、1つの選択肢では解決できないケースもあります。さまざまな状況をイメージして最善策を考え、多様な選択肢を提示する役目を担うコンサルタントにとって、大きな学びにつながる本だと思いました」

 想定外の事態は突然やってくる。正解のない問いにどう答えるか。考えを巡らせる力を、この本で養いたい。


Q1)
会社で地震に遭遇。家族に電話をするがつながらないなか、部下の安否確認もしなければならない。仕事を優先する?

Yes  or  No

Q2)
あなたは、高校3年生です。この1年間、いろいろと我慢してきた。でも卒業後は、まちを出て就職(大学進学)したい。両親は「地元の復興の力になるべきだ」と言うが、まちに残る?

Yes  or  No

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上にある2つの問いは、『被災地デイズ』に実際に掲載されているものの中から抜粋したものだ。全31個の問いから、被災下における数々のジレンマとそれに対するアンサーが書かれている。

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一つひとつの問いに対してアンサーページが。過去の事例や被災者の言葉を交えながら、問いのような状況下ではどのような対処が挙げられるか、考え方のヒントが記されている。


Imagine with Book

さまざまな意見を織り交ぜながら
防災への学びを深められるカードゲーム

 「クロスロード」は、1995年に発生した阪神・淡路大震災を例に取り上げ、研究者たちが自治体職員や被災者に取材をしたデータをヒントに制作したカードゲームだ。被災者や避難所職員といったさまざまな立場の人になりきり、災害時の問題について考えていく。矢守先生は、ほかのツールと組み合わせて学ぶことに意味があると言う。

 「たとえば『津波情報が出たとき、近所に一人暮らしの高齢者がいたら?』という問いがあるとすると、知識なくして答えは出せないはずです。自宅がハザードマップ上のどこにあり、何分ほどで津波が来ると予想されているのか、その人の家まで何分かかるのか、といった情報を知っておく必要がある。加えて、避難所や高齢者の家まで実際に行き、最短ルートも把握しておきたい。知識を増やすこと、動いてみること、そして、想像力を高めること。これらが一体となってはじめて意味を持つのだと思います」

 リッジラインズの今井さんは、D&I(※)を例に挙げて次のように話してくれた。

 「社会には多様な人がいて、全員の命を守るためにみんなで協力していかなければなりません。多様性が尊重されつつある現代において、防災への考え方もアップデートしていきたいですね」

 矢守先生は次のように続ける。「支援が必要な人について考えることは、全員について考えることでもあるのです。もし真夏に大地震が起きて停電したら、健康でも熱中症で命を落としてしまう人が出てくるでしょう。D&Iは、弱い立場に置かれた人にしわ寄せが来がちな防災の分野においてこそ、大切な考え方です。クロスロードを実践しながら、さまざまな立場にいる人たちのことを想像して話し合ってみてください」。

※「ダイバーシティ&インクルージョン」の略。社会において、人が国籍や年齢といった違いにかかわらず尊重され、個人の能力を発揮している状態のこと。

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「クロスロード」はチーム・クロスロードの著作物で登録商標です。本企画で活用した設問の一部は、矢守克也氏の了解と校閲のもと特別に作成したものです。


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