DIALOGUE
「僕と私のクロストーク」
最後のトピックスは、男女間のコミュニケーションの話。なぜか起きてしまう男女の“すれ違い”。数多くの“恋バナ”を聞き、ジェンダーの問題や男性自身の行動に自戒を込めて分析・発信している清田隆之さんと、鋭い観察眼で現代社会の問題をユニークに表現する漫画家の瀧波ユカリさん。2人のクロストークからモヤモヤを紐解き相互理解のためのヒントを探ろう。
恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表
清田隆之
文筆業、恋バナユニット「桃山商事」代表。これまで1200人以上の恋愛相談を受け、「恋愛とジェンダー」をテーマにコラムをはじめ、各メディアで幅広く発信している。
『よかれと思ってやったのに 男たちの「失敗学」入門』
(双葉文庫)
これまで1200人以上の女性たちの恋愛相談に耳を傾けるなかで気づいた、「男性のあるある行動」を20のテーマに分類し、実例を用いて「男らしさ」の問題点を丁寧に浮き彫りにした本。身近なジェンダー問題に気づくきっかけに。
漫画家
瀧波ユカリ
漫画家。独特の社会風刺の視点で注目を集めている。漫画に『臨死!! 江古田ちゃん』『モトカレマニア』(ともに講談社)、コミックエッセイに『ありがとうって言えたなら』(文藝春秋)など。
『わたしたちは無痛恋愛がしたい』
(講談社)
鍵をかけたSNSでしか本音が言えない主人公・星置みなみが、中身のない男に雑に扱われたり、女の役割を押し付けられたり…あらゆるジェンダー問題とぶつかり、もがきながらも成長していく様子をユーモラスに描く。ウェブ漫画マガジン『&Sofa』(講談社)にて好評連載中。
Think GENDER
男と女のすれ違いはなぜ起こるのか?
清田:瀧波さんが連載中の『わたしたちは無痛恋愛がしたい』、毎回楽しみにしています。この作品では、恋愛における男性の発言や行動から生じる女性側の“痛み”をリアルに表現していますよね。と同時に、その言動の裏には、育った環境や周囲の人間関係が影響していたり、自己形成の段階で傷を負っていたりと、男性がなぜそうなってしまったのかという背景も描かれている。男女間で起こる〝すれ違い〟の背景について瀧波さんとお話ししたいと思いました。
瀧波:ちょうど昨日も、男性の気になる行動に遭遇しました。ケーキ店に並んでいたとき前に立っていた男性が、おそらく妻と電話をしていて「予約したのに並ばなきゃいけないの? めんどくさっ!」と言ったんです。ケーキを予約しているということはおそらく誰かのお祝いで、妻は家で忙しく準備をしているはず。にも関わらず「めんどくさい」と…。私はとてもモヤモヤしました。清田さんも『よかれと思ってやったのに 男たちの「失敗学」入門』の中で、そういった男性のモヤモヤ行動を解説してましたよね。
清田:この本では、女性たちから聞いてきた男性に対する疑問の数々を紹介しながら、我々男性の態度がどのような問題があるのかを探っていきました。ケーキ店の男性の行動には、いろいろなモヤモヤ要素がありますよね。本のなかでも考察していますが、男性には小さな面倒を回避したがる傾向を感じます。その背後にあるのは「自分には関係ない」といった他人事感や、「それって女の人がやることでしょ」といった性別役割分業意識といったものが見え隠れします。そういう気持ちは発展すると、“やってあげてる精神”にもつながって危険です。一般的に面倒を回避できるのは「許される側」で、誰かの犠牲のもとに、面倒を回避している可能性が高いことに気付けなくなってしまう。
瀧波:それ、すごく迷惑。
清田:そうならないために「やれる人がやる」という意識をちゃんと持って、手間や面倒を誰かに押し付けていないか、想像力を働かせていくことは大事だと思います。
モヤモヤの原因はジェンダーギャップ!?
清田:この本を書く前段として、僕はこれまで、女性から無数の“恋バナ”を聞いてきました。それで気づいたんですが、女性たちが男性の言動にモヤモヤする部分には共通点が多い。それで、その要因を突き詰めて考えると、ジェンダー問題に起因しているということが見えてきたんです。一見、男性たちの行動は女性から見るとモヤモヤするかもしれません。でもそのモヤモヤ行動の背景を掘り下げていくと、たとえば、それが許される環境で育ってきたとか、実家で母親がなんでもやってくれていたとか、部屋が汚くても男性だったら許される感覚だったりとか…。モヤモヤを生み出す要因は、個人的な性質だけではなく、男性を取り巻く“社会”が生み出している側面も見えてきました。
瀧波:女性だったら部屋が散らかっていれば、「女の子なんだからちゃんと掃除しなさい」と干渉されることも多いと思うんです。その結果、女性は生活能力が高くなり、自立もしていく。
清田:確かに、生活能力の違いってありますよね。僕からしたら女性は強豪校の選手に見えるというか。練習も厳しくて鍛えられたからこそ、能力が高い。
瀧波:男性は、自分のケアも他人のケアも「しなさい」と言われることはあまりないですよね。そもそも、社会が女性に干渉するのは「女らしさ」の押し付けともいえます。
清田:男性は、知らず知らずに下駄を履いていることになかなか気づけません。たとえば学生時代の友人は、いつも身ぎれいでよく褒められます。でも、昔の彼はそんなことはなくて。結婚後に妻にファッションを改造してもらったんです。妻のセンスに恩恵を受けつつ身支度を任せていることに疑問はなく、しかも周りからは「妻の言葉を柔軟に受け入れるいい夫」として評価されたりしてしまうんですよね。
瀧波:身ぎれいで清潔感があるだけで褒められる。女性が同じように、夫からフルコーディネートされていたら、自分がないの? 自立してないの? などと笑われたり心配されそう。
清田:ですよね…。同じことをしていても、男女で全く違う評価を受けることがあるわけで。それが、男性と女性のコミュニケーションにおける、すれ違いを生む要因のひとつになっているのかもしれません。
コミュニケーションを育みましょう
清田:自分自身もこの本にあるような言動をしてしまうことがあり、なぜそうしてしまったのか、相手はどんなところにモヤモヤしているのかを考えるようになりました。男性読者からの感想には「男性性の問題行動は社会がつくっていることを知りましたが、いざ改善しようと思っても自分で気づききれない部分も多く、完璧に改善するのは難しそう」といった声も多かったです。ジェンダー平等の考え方は、学んだからといってすぐに行動に反映するのは難しい。仮に男性が行動を改善できても、男女間の問題がなくなるとは言えないと思います。ではどうやって、すれ違いをなくしていくかといったら、やっぱりコミュニケーションかなと。問題があったら、その都度お互いに歩み寄って相互理解を試みる。これまで当たり前だと思っていたことをもう一度見直して、パートナーとの間にあるギャップを埋めていく努力をし続けるしかないのではと思います。
瀧波:私は「パートナーとの関係性を育てる」という考え方がいいと思っています。人を変えることはとても難しい。でも、関係性を改善することなら、ハードルが少し下がるのかなと。関係性を育てようと働きかけることも、もちろん忍耐力がいりますが、親密なパートナーシップのもと、時間をかけて諦めずに働きかけていくことが大切だと思っています。
清田:パートナーの性格を変えようとするのではなく、コミュニケーションを育てていくということですね。
瀧波:私も、夫からのラインの内容でモヤモヤすることがありますが、怒りをぶつけないように気をつけながら、こちらの気持ちが伝わるように言葉を選んで返信しています。自分にとって心地よいコミュニケーションを知ってもらうためには、逐一伝えていくしかないんですよね。モヤモヤが大きいときには腰を据えて1時間くらい話し合うこともあります。女性同士の友情は、互いに相手の気持ちに配慮しながら丁寧に育まれていくことが多いと思うんです。だから同じように、男性との間でも丁寧にコミュニケーションを重ねながら、いい関係性を育てていきたいと思っています。
清田:女性同士の友情の築き方には、「男女の相互理解」を進めるためのヒントがたくさんありそうですよね。『無痛恋愛』は、その参考図書。主人公のみなみとその友人の由仁ちゃんの友情の育み方には、男性が学ぶべきところもたくさんなるなと。我々男性も、自分研究や自己理解をもっと深めていきたいですね!