数多の名店を成功へと導いてきた職人気質のシェフが、キャリア47年目にして初めて店を構えた。ひっそりとした佇まいのその店では、味覚が研ぎ澄まされるような至高のキュイジーヌが味わえる――ベーシスト、ピノ・パラディーノによる初のオリジナルアルバム『Notes WithAttachments』は、たとえるならそんな作品です。さりげないようで寸分の狂いもない場所に音が置かれていき、聴く人を気持ちよく酔わせる。「Soundwalk」や「Chris Dave」といった曲では、とろけるようなディアンジェロサウンドをピノの技術がいかに下支えしているかよくわかります(『Black Messiah』も必聴!)。アフリカやキューバの楽器のユニークな質感、精鋭たちの演奏、抜群の素材に奥深さと意外性を加えるブレイク・ミルズの音づくり。何を鳴らし、誰が鳴らし、どう聴かせるのか、その一つ一つを追求した、言うなれば音楽のガストロノミーです。私たちは最高な状態で提供される美味な音を堪能するのみ。魅惑のひと皿は数口でなくなってしまうけれど、レコードなら何度でも聴けて幸せ!
そんな耳でトム・ミッシュとユセフ・デイズのコラボアルバムを聴いたら、家のみがしたくなりました。即興と掛け合いから生まれた「Kyiv」なんて演奏する本人たちも盛り上がっちゃってるし、友達が持ってきたワインに合わせてありものでおつまみつくって、じゃあこっちのボトルも抜栓しちゃう?みたいな、ああ、成り行き任せの豊かな時間よ。再びそのときが来るまで、もうしばらく音楽で至極の時間を味わうことにしましょう。
PINO PALLADINO AND BLAKE MILLS『Notes With Attachments』
ザ・フー、ジョン・メイヤー、ディアンジェロなどの作品をサポートしてきたトップ・ベーシストが、溜めておいた音のスケッチをプロデューサーのブレイク・ミルズとタッグを組み作品化
D’ANGELO AND THE VANGUARD 『Black Messiah』
BLMともリンクする重厚なグルーヴをまとったブラックミュージック作品。ピノ・パラディーノとリズム隊の双璧をなすドラマーのクリス・デイヴは『Notes With Attachments』にも参加
TOM MISCH & YUSSEF DAYES 『What Kinda Music 』
洒脱なサウンドのマルチ奏者と新進気鋭のジャズドラマーがジャムセッション!実験的なコラボ作には、ピノ・パラディーノの息子でベーシストのロッコ・パラディーノも参加