歌でもない。ラップでもない。朗読のようなスポークン・ワードのボーカルが流行中です。メロディから解放された歌詞は、普段の言葉と地続きのようで親しみやすくもあり、ときに高尚で、なにより自由な印象があります。
ポストパンクが盛り上がっていることもあり、南ロンドン界隈ではさまざまな“歌わない系ボーカル”が登場中。女性の淡々としたスポークン・ワードが鮮烈なのはドライ・クリーニング。いまのスタイルになったのは、インストバンドに音楽キャリアのない美術講師がボーカルとして加入したからなのだとか。歌詞の内容は、長い脚について話していたかと思えば、船室のアメニティの話になったり、もう頭の中がシュルレアリスム。聴き手の感度がバリバリ試されるアートな佇まいが最高です。
同じく南ロンドンで、起伏の激しいシュプレヒゲザング(喋るような歌唱法)を繰り広げるのはブラック・カントリー・ニュー・ロード。長尺で複雑に展開するサウンドと、一人称で語られる思春期の絶望や劣等感やエネルギーが渦巻きながらクレッシェンドしていくさまは、さながらロックミュージカルです。
そしてUKジャズからは、ネオソウル・サウンドが美しいアルファ・ミストの『Bring Backs』。ヨーロッパの移民にまつわる詩の朗読を挿入した「Last Card(Bumper Cars)」 を中心に据え、ラップや歌も交えながら、社会の隔たりや不平等に意識を向けさせます。
そう、誰もがなにか言いたくなる世の中。新鮮な耳心地のスポークン・ワードに耳を傾けてみてください。
DRY CLEANING『New Long Leg』
ロンドン気鋭のパンクバンドが4ADからリリースしたデビュー作。ジョイ・ディヴィジョンやソニック・ユースを彷彿とさせるサウンドと体温低めのスポークン・ワードの組み合わせが完璧
BEAT RECORDS / 4AD 2021
BLACK COUNTRY,NEW ROAD『For The First Time』
ジャンル分け不能の7人組バンドによるデビュー作。ガ・レモン・ツイッグス『Go To School』にも似たミュージカル感とライブフィーリングがエキサイティング
BEAT RECORDS / Ninja Tune 2021
ALFA MIST『Bring Backs』
ラップしながらエレピを弾き語りする多才なジャズピアニストの4作目。ビートメイキング経由のコンテンポラリーなサウンドは、ジャジー・ヒップホップやネオソウル好き必聴
Anti 2021