先へ進め《音楽日々帖》


  情勢は一進一退、未来はまったくもって予測不能。もう何が起こっても驚かないぞ。とにかく今日のタスクを進めよう。そんなハードモードのときに、キックスターターになりそうな音楽を選びました。

 ザ・ウィークエンドの『Dawn FM』は、この世とあの世のあいだにある煉獄で流れるラジオがテーマ。どこか薄気味悪いけれど、80年代シンセやニューエイジ感のあるダンスポップが、いまの空気感と絶妙にマッチしていて唸りました。清められて天国へ旅立つコンセプトを思うと、お得意のセクシャルでドラッギーで未練たらしい歌詞も「俗であることこそ生きること」な感じがして、暗たんたる世界にもたらされる光のメタファーにも思えます。

 イリヴァーシブル・エンタングルメンツは、詩人を擁するフリージャズ集団。『Open The Gates』のタイトル曲ではアグレッシブなベースとパーカッションに乗って、解放へのエネルギーが炸裂。力強いスポークンワードと呪術的な演奏が、作品全体に強い推進力を生み出しています。

 そして、ヤード・アクトの『The Overload』は、ブレグジット以降のイギリスが生んだ最高のポストパンクアルバムです。当たり障りない音楽が好まれますよとか、真っ当な人生で素晴らしいですねとか、皮肉とユーモアでなじりながらも、最後にはそれでも今日を生きる人へエールを送り、嫌なことを忘れて踊りたくなるサウンドを繰り出す。絵本『フレデリック』で豊かな詩が越冬のネズミたちの助けとなったように、パンデミック3年目の閉塞感にはこんな痛快で爽快な音楽が必要でした。

THE WEEKND『Dawn FM』

 死後の世界で聴くラジオ番組がコンセプト。日本のシティポップの引用も話題に。ジム・キャリーがDJの声を担当し、曲のつなぎ方からCMのディテールまでまさにFMラジオ

metro229_metroradio_1.jpg2022 UNIVERSAL MUSIC

IRREVERSIBLE ENTANGLEMENTS『Open The Gates』

 フィラデルフィア拠点のジャズ集団。ブラックヒストリーを参照しながら、解放や平和を訴求するスポークンワードと熱狂的でエクスペリメンタルなジャズが絡みあう

metro229_metroradio_2.jpg2021 INTERNATIONAL ANTHEM

YARD ACT『The Overload』

 BBCのSOUND OF 2022に選出され注目を集めるリーズ拠点のロックバンド。風刺の効いた語りに近いボーカルとダンサブルなポストパンクが融合したデビューアルバム

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2022 UNIVERSAL MUSIC






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