今年のグラミー賞授賞式では、音楽業界の裏方で働く女性たちがプレゼンターとしてフックアップされました。パンデミックの苦境を支えるプロたちを祝福すると同時に、これはアメリカの音楽界がいまだ男社会であることの裏返しなのかもと、ちょっと複雑な気持ちになりました。
2年前に出たハイムのアルバムタイトルが『Women In Music Pt.Ⅲ』だったことを思い出します。なかでも「Man From The Magazine」は、男性記者にセクハラめいた質問をされたり、楽器店でギター初心者扱いされた実体験を、ジョニ・ミッチェル(女性ギタリストの大御所)オマージュで跳ね返す痛快な1曲でした。
「音楽における女性性」というテーマ、じつは2022年の作品でもキーワードなんです。たとえばササミの『Squeeze』は、妖怪濡れ女をモチーフに女性が隠し持つ凶暴さを、メタルやインダストリアルのサウンドで表現。とくにこういうハードなジャンルではガールズバンドなどと言いがちだな、無意識に男性的なものと決めつけてはいないだろうかと、女性である私自身もハッとさせられました。
またフローレンス・アンド・ザ・マシーンの『Dance Fever』は、女性アーティストとしてキャリアを続けていくことの葛藤を吐露する「King」から始まり、神を信仰する敬虔さと、世間の求める女性像を重ね合わせるような表現が度々登場します。
音楽作品のなかでも、先入観や偏見、それらがもたらす違和感を顕在化させている段階なんですね。より多様で自由な表現へ。変化の過程を見逃さずにいたいです。
HAIM『Women In Music Pt.Ⅲ』
3姉妹の喪失や葛藤を爽快なLAサウンドに乗せて届ける3作目。ステイホームの2020年夏を太陽のように照らしてくれた1枚でした。進行中の北米ツアーにはSASAMIも帯同
SASAMI『Squeeze』
ジャケットで聴かず嫌いは損。凶暴さと明るさが交互に襲いかかってくる。妖怪濡れ女のモチーフは、アジア系ミュージシャンとして人種的先入観への問いかけでもありそうだ
FLORENCE + THE MACHINE『Dance Fever』
中世〜近世ヨーロッパで発生した集団ヒステリー「ダンシングマニア」を引用し、解放の場としての音楽とダンス、パンデミックがもたらしたリアルな表現の場への渇望を込めた
2022 UNIVERSAL MUSIC