おうちで映画を見るなら 第2回 《映画でぶらぶら》


本誌連載「映画でぶらぶら」でおなじみの映画誌編集者・月永理絵がお届けするWEB特別企画。おうちで映画を楽しむために、配給会社が立ち上げた新たな取り組みを、全3回にわたってお届け。2回目は、配給会社別のイチオシ映画情報3作品をご紹介。

 

■「Help! The 映画配給会社プロジェクト」【配給会社別 見放題配信パック】のおすすめ作品

 

ジャン・ルノワール『ピクニック』

1_picnic.jpg

自宅にこもる生活が続いてきたこの数ヶ月。それはそれで楽しいと思いつつも、外に出たい、どこか遠くへ出かけたい、という誘惑がときおり頭をよぎっていた。たとえば川辺で集まってピクニックとか。

 

フランスの名匠ジャン・ルノワール監督が、1936年に撮影した40分あまりの短編作品。舞台は1860年、夏のある一日。パリ郊外へピクニックに出かけた一家は、晴天のもと、川べりでの昼食を楽しんでいる。娘のアンリエットが溌剌とブランコをこぐシーンは、映画史に残る名場面だ。同じく川へやってきた青年二人組も、彼女の姿に目を奪われる。やがて青年たちは家族に声をかけ、つかのまの休息を楽しむ。だが突然の雷雨が、アンリエットの運命を大きく変えてしまう。

 

これほど幸福な映画はない。物語自体は、むしろ痛々しい残酷さを孕んでいる。それなのに、どうしようもなく幸福な映画だ、と言いたくなるのはなぜだろう。白黒の画面いっぱいに広がる光の渦。日差しを反射する水面のきらめき。自然の中でピクニックに興じる人々の生き生きとした身体。そのすべてに心を奪われる。映画とはこういうものだ、とわけもわからず断言したくなる。

 

たった40分弱の映画にこめられた、半日だけのピクニックの記憶。この言いようのない幸福さ、そしてその幸福さが失われる悲しさを、どうか一度は体験してほしい。

 

視聴は【クレストインターナショナル見放題パック】


フレデリック・ワイズマン『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』

2_National_main.jpg
© 2014 Gallery Film LLC and Ideale Audience. All Rights Reserved.

ドキュメンタリー映画の巨匠、フレデリック・ワイズマンは、アメリカを中心に、さまざまな場所や組織に入り込み、そこで生活する人々や構造を記録し続けてきた。彼の作品に、ナレーションやテロップが一切つけられないのは有名な話。昨年日本で公開された監督作『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』でも、やはり同じだった。テレビのドキュメンタリーのような、わかりやすい解説やストーリーを望む観客には、一見不親切に思えるかもしれない。でも、ここにはたしかにストーリーが存在する。膨大な時間をかけて記録された映像群から、観客自身がそのストーリーを発見するのだ。

 

本作は、ワイズマン監督が、イギリスの国立美術館、ナショナル・ギャラリーを撮影した作品。1824年に設立されて以来、ロンドン市民はもちろん、国内外多くの人々に愛されてきた美術館が、巨匠の手によってひもとかれていく。映画には、ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、カラヴァッジオ、ベラスケス、ターナーをはじめ、名画と呼ばれる作品が次々に登場する。

 

だがこの作品がおもしろいのは、単に名画を堪能できるからではない。むしろ、普段は見ることができない、美術館の内部が満遍なく映し出されるさまが何よりの魅力だ。美術館の広報をめぐる会議の様子や、予算について紛糾する運営委員たちのやりとり。学芸員によるギャラリートークやワークショップ。作品の修復や搬入といった、貴重な作業風景を見られるのも嬉しい。人々が帰ったあと、無人の美術館の静けさにも魅入られる。そこへやってくる清掃スタッフは、さながら夜の美術館の番人だ。

 

美術館という場所が、どれほど多くの人の手によって成り立っているのかがよくわかる。しばらくは海外の美術館に直接出向くことも難しいけれど、ドキュメンタリーを通して、遠くの場所に想いを馳せるのも悪くない。

 

視聴は【セテラ・インターナショナル見放題パック】


ラウル・ペック『私はあなたのニグロではない』

3_遘√・縺ゅ↑縺溘・繝九け繧吶Ο縺ヲ繧吶・縺ェ縺・Γ繧、繝ウ.jpg

4_遘√・縺ゅ↑縺溘・繝九け繧吶Ο縺ヲ繧吶・縺ェ縺・し繝輔y1.jpg

アメリカ黒人文学を代表する作家、ジェームズ・ボールドウィン。1924年にニューヨークのハーレムで生まれた彼は、『ジョヴァンニの部屋』『アメリカの息子のノート』などの小説・エッセイを発表し、昨年には小説『ビール・ストリートの恋人たち』がバリー・ジェンキンズ監督によって映画化された。ボールドウィンは、24歳でパリへ移住。黒人であり同性愛者である自分のアイデンティティを反映した作品を手がけた彼は、また公民権運動の活動家でもあった。この映画は、ボールドウィンの未完の原稿をもとに、ハイチ出身のラウル・ペック監督が映画化した、鮮烈なドキュメンタリー。

 

映画の軸となるのは、黒人公民権運動の活動家、メドガー・エヴァース、マルコムX、キング牧師らの闘争の軌跡。彼らの戦いぶりをたどりながら、メディア(映画、音楽、広告)における黒人の表象のされ方を並べ、アメリカ社会が黒人をどのように扱い、レッテルを貼ってきたかを告発してみせる。

 

ペック監督の手法はじつに大胆だ。さまざまな証言や記録映像をコラージュしながら、ボールドウィンの書いた言葉によってそれらを再構成する。言葉を読み上げるのは、俳優サミュエル・L・ジャクソン。抑制された声で発せられる、ボールドウィンの気高く美しい言葉が、アメリカ社会の醜く残酷な現実を暴いていく。と同時に、私たちの無関心と無知に対し、映画は、はっきりと異議を申し立てる。画面全体にあふれるのは、強い怒りと絶望。だがそれが、美しく悲しい詩のようでもあるという、奇妙な矛盾もある。

 

これは強烈な映画体験だ。私たちはこの映画を見なければいけない。そして、ボールドウィンの本を開き、彼の言葉を聞かなければいけない。私たちにはそうしなければいけない義務がある。そう、この映画は語っているようだ。

 

視聴は【マジックアワー見放題パック】






この記事をシェアする

LATEST POSTS