illustration: Yu Fukagawa text: 千代里

幸運の⼥神の⾒つけ⽅《お多福美人講座》


 芸者になってすぐの頃、「どうしてこんなに意地悪なの!」と感じる⽅がいました。それはある料亭の男性のお帳場さんで、私の顔を⾒るや、顔かたちからお化粧、髪型、性格まで、悪いところをあげつらい、近くまで来て、「ドン」と床を踏み鳴らすのです。当時は、お師匠さんやお姉さんに間違いを教えていただくときですら、逃げ出したいと思う未熟者で、そのお帳場さんの指摘は、いくら当たっていても苦痛なだけでした。

 あるとき、また別の⽅に私が怒られているところへ、その⽅がやってきました(どれだけ怒られているんでしょうか 笑)。「あ~、さらに嫌みを⾔われる」と⾝構えた瞬間、「チヨリンはいい⼦よ。私がつくった箱、きれいって⾔ってくれたものね」という⾔葉が聞こえました。その料亭は、お⽔菓⼦のあとにさらに季節の和菓⼦が出るのですが、お召し上がりにならないお客様には “おみや”としてお渡しされていました。そのための⼩さな箱のフタがとても美しく、てっきりどこかで買っておられるのだろうと思っていたら、お帳場さんの⼿によるものだと聞いて、⼼底驚いたことがあったのです。

 それ以降もお帳場さんの”床踏み”や”ご指摘”は続きましたが、⽀えていただくことも多く、顔を合わすのが苦痛ではなく、楽しみになっていました。その頃から、ほかの⽅に対しても「この⼈はいま、⼝ではこんなことを⾔っているけれど、この先私をかばってくれる味⽅だとわかることがあるかもしれないな」と思うようになり、世のなかに好きな⼈が増えていきました。最初から親切な⼈ももちろんいますが、思わぬことがきっかけで、それまで敵だと思っていた⼈が味⽅になるのは、まさに⼈⽣の醍醐味。誰が幸運の⼥神かは、「あとになってのお楽しみ」。どうやら幸運の⼥神は、途中から本性を表すのがお好きなようです。

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