誰かの経験につながるような発見を
日ごろ小説に馴染みがなくても、『天地明察』や『十二人の死にたい子どもたち』といった話題作を通じて、小説家・冲方丁の作品に触れたことがある人は多いはず。彼が、昨年に引き続き審査員をつとめる「約束エッセー大賞」が、今年も開催される。一般公募作を審査するのは、昨年が初だったという冲方。応募作のレベルが予想以上に高いことに驚いたという。
「昨年の最終選考に残った作品は、どれもレベルが高く、採点には苦労しました。こちらの想像を刺激してくれる展開や、知らない世界を見せてくれるものなどもありましたが、孫とおじいちゃんといったイメージがしやすい家族間の話も印象に残っています。どの作品も、人同士がこんなにも向き合っているのかと、ノンフィクションの価値を考えさせられるいい機会になりました」
そんな冲方も、小説のみならず、エッセーも書いている。彼自身は、普段どんなときにエッセーを書いているのだろう。
「私は、日ごろから小さい発見であれ大きい発見であれ、なんでもメモするようにしています。それがいつか別の発見につながるかもしれないと思っていて、自分なりの視点で見つけた発見が、他者に多少なりとも影響を与えられたらいいなと」
今年度も、「約束」をテーマにしたエッセーを募集するこの大賞。今年の審査に向けて、一言を。
「普段は自分のなかだけで完結してしまうことでも、文章にして人に読んでもらうことで、共感や挑戦したいと思う気持ち、ありがたい気持ちなど、読み手によって”経験化”されると思っています。コンテストですから競う場ではありますが、ご自分なりの体験が、多くの人にとっての経験につながるようなエッセーが読めることを楽しみにしています」
応募の締め切りは、2022年1月13日(木)。あなたの人生のひとコマを前向きに、文章に残してみては。
うぶかた とう
1977年2月14日、岐阜県生まれ。小説家。1996年『黒い季節』でデビュー。2003年『マルドゥック・スクランブル』で日本SF大賞を受賞。2010年には『天地明察』で吉川英治文学新人賞と本屋大賞をW受賞。2016年、『十二人の死にたい子どもたち』で直木賞候補にノミネートされる。小説だけにとどまらず、アニメのシリーズ構成や脚本作家を務めるなど、その活動は多岐にわたる。

小説『麒麟児』
著:冲方丁
価格:836円 文庫判/352ページ
発行:角川文庫