「なんか、そういう違和感ってありますよね」。あるランチでの会話です。話題はジェンダーについて。彼女たちが話しているのは、最近、男女という性別の分け方そのものに違和感を感じる場合が多いということ。「男とか女とかもはっきりしなくて。“クィア”みたいに性別で割り切れない感覚って普通にあると思うんです」。ふむふむ。「女の子だから、料理がちゃんとできないと、とか。男の子だからちゃんと働けとか、違和感しかなくて」。 10〜20代の子たちと話すと、この「違和感」というワードがよく出てきます。
ジェンダーだけじゃなくて、それはいろんな話題に発展します。「服って新しいものを買わなくちゃいけないんですか?」、「コロナで、若者ばかりが悪者扱いされる」、「学校って行かなくちゃいけない?」など。「クイズ!THE 違和感」というテレビ番組があります。こちらはひたすら日常と違うところをクイズで当てるのですが、確かに「違和感」という言葉は、まさにいまの時代を感じます。
昨年末に問題になった「#流行禁句大賞2020」。この「流行禁句」とは、自分が言われて傷ついたり、違和感があった言葉を2021年に持ち越さないようにという意図で始まりました。わかりやすい例だと、「ごめんしばらく帰省しないで」とか、なにが悪いのか全く気づかない人も多いかもです。
人類がはじめてコロナ禍に見舞われた2020年は、いろんな違和感が生まれた年でもありました。言葉はとても微妙です。ある人にとっては全く問題がなくても、ある人を傷つけることもある。「独身、羨ましいな」と言われて、傷つく人もいます。「女って得だよね」もなかなかなNGワードです。ちょっと前だったら見逃されていた言葉が、最近になって急にNGになったりする。これはSNSの炎上が日常化した現代ならではの現象といえそうです。だから、なにか発信するときはその言葉が誰かを傷つけないかを、ツイートする前にちゃんと考えることが大切です。ぺこぱの「否定しないツッコミ」が流行したり、『鬼滅の刃』では鬼にも共感が集まるのも、善悪や白黒を決めづらい世の中だからこそなのでしょう。人を一方的に否定すること、旧来の常識をそのまま受け入れたり、押し付けたりすることは危険だということなのです。
前述の会話に登場した二人が立ち上げた『IWAKAN』という雑誌があります。その創刊号の特集が「女男」。ジェンダーについての違和感をいろんな角度から取り上げています。違和感って、とても大事な感覚です。自分を振り返ってみても、10代、20代は違和感でいっぱいでした。当時流行っていた尾崎豊もブルーハーツも、違和感の王様です。年齢や社会経験を積み重ねてそんな小さな違和感も忘れて、 世の中に馴染むように生きていたのかもしれません。
違和感の捉え方は、世代や社会環境や地域でも変わってきます。ある人の正義が、ある人の不正義になることもあるように。だけど、違和感から新しい価値観に気づくこともたくさんあります。だからこそ、心を柔軟にして、いろんな違和感を声に出してみようと思うのです。そして大切なのは、対話です。いろいろあるけど、2021年が明るい時代の始まりとなるようにね。さて、あなたの最近の違和感って何ですか?
THIS MONTH'S CODE
#クィア
queer。元は「風変わりな」「奇妙な」といった意味だが、性的マイノリティを包括するときに使われる。
#流行禁句大賞2020
2020年を振り返り、翌年に持ち越したくない言葉を選ぶ賞。ノミネート禁句には「コロナはただの風邪」など20句を選出。大賞は昨年末発表に。主催は一般社団法人21世紀学び研究所。ちなみに筆者もノミネート選出委員を務めた。
#『IWAKAN』
多様な個性を肯定するクリエイティブ・スタジオ「REING(リング)」がつくった雑誌。初版1000部が速攻売り切れて話題に。