illustration: Shogo Sekine

#金継ぎでアップサイクル《東京#CODE》


  やっと春めいてきましたね。今年の春こそみんなで集まって、笑い合って迎えたいものです(切実)。最近すっかり会食もできなくて友人とも遊びに行けないこともあり、おうち時間で何をしようか、と考えております。そんな折、友人が主催する「金継ぎ」ワークショプに行ってきました。

 金継ぎ、最近気になっていたんですよね。ちょっと前にあった地震で食器棚にあった器や花瓶が3、4個見事に割れたり、欠けたりしてしまって結構落ち込んでいたんです。友人からのプレゼントの古伊万里の蕎麦猪口とか、珉平焼の豆皿とか。ちょっとずつ割れちゃった器を見て、捨てるには忍びなく大事にかけらを集めておいたのです。そんなときにお誘いの言葉、もう渡りに船です。新しいことを学ぶって、それだけで本当にワクワクします。こんな時間が出来たのもコロナのおかげです。さて、当日。割れたお皿たちとエプロンを持って、いざ会場となった友人宅へ。日曜日の昼前、カーテンから優しい日差しが入るリビングで、感染対策をしながら金継ぎ教室が始まりました。

 金継ぎには、本うるしを使う本格的な方法と、合成塗料(※)を使って工程を少なく時間も短縮する簡略的な方法の2種類があります。私が今回使ったのは後者です。これだと工程はトータル3時間ほどで完成です。知り合いと和気あいあい話しながら手元に集中。そんな時間はとても貴重な体験でした。

 そして何よりも、諦めかけたお皿たちが金色の“景色”をつけて蘇るこのうれしさはものすごい達成感です。不器用な私が描く筋はちょっとヨレヨレしていますが、それもご愛敬。ちょっとくらいへたっぴでも「いい景色ですよ(にこっ)」という言葉で肯定してくれる先生、本当に優しい(涙)。

 海外でも、金継ぎはそのまま“KINTSUGI”と呼ばれ、アップサイクルブームに乗って広がっております。 金継ぎを紹介するあるYouTubeのチャンネルは再生数130万回を超えて、「The Art of Embracing Damage」(=ダメージを受け入れる芸術)とまで訳されております。壊れたものを受け入れて、新たな美しさをつくる。そういうところがまさにアップサイクル精神なのですよね。

 最近ではあちこちでワークショップが開かれていたり、「D&DEPARTMENT TOKYO」や「MUJI 新宿」では、欠けた器を金継ぎで修復してくれるサービスもあります。また簡単にネットでも初心者用のセットが手に入るので、金継ぎは特別なことではなく、ちょっとお洒落な趣味、くらい身近になっているようです。そういう私も、家にある欠けた器や、割れて悔しかったお皿を探しては、いそいそと金継ぎをしております。なにしろガサツでモノを壊しがちな私にとって、「修理」が楽しい!と思える体験は新鮮でした。

 こういった「直す」文化を何百年も前から大切に受け継いできた日本って素敵。そういえば、子供のころ破いてしまったスカートや靴下を母親が夜中に直してくれたっけ、と昔を思い出したりして。昭和の日本にとっては当たり前のことだったんですよね。さらに古く安土桃山時代などに活躍した武将茶人、古田織部の有名な十文字の金継ぎの器は、元の姿以上の大胆な景色で美意識を貫きました。日本が世界に誇る
KINTSUGIはまさにSDGsの極み!モノの価値を修理でアート領域に変えるアップサイクルなのです。

THIS MONTH'S CODE

#工程

簡易な金継ぎの大まかなプロセスは、紙テープで固定しながら割れた部分を接着→つなぎ目をパテでふさぐ→紙やすりで表面を滑らかに→つなぎ目に金粉などを定着させる→全体にやすりをかける→乾燥させて出来上がり。

#いい景色

金粉で描いた筋や柄が味になっていることを「景色がいい」と表現すると、ちょっと通を気取れる。

#古田織部

織田信長や豊臣秀吉に仕えた武将茶人。千利休の弟子として知られ、のちに茶の道を究めた。元の器を大胆に十字に割って金継ぎを施したとされる「大井戸茶碗 銘 須弥(別銘:十文字)」が有名。






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