illustration: Shogo Sekine

#ジェンダーフルイドって知っている?《東京#CODE》


 今年の東京ファッション・ウィーク(2024年春夏コレクション)は8月末からの開催でした。あの酷暑の中、ファッション業界人は来年の春夏の動向を追いかけておりました。今回話題になったブランド《KANAKO SAKAI》のショーで気になるルックがありました。坊主ヘアの男性モデルが着こなしていたフリンジのドレス。今シーズン、性別を超えたコレクションが目立ちました。

 かつては、性別の差がない服をユニセックスと呼んでいました。時代を経て、ジェンダーレスやジェンダーフルイドという言葉が使われています。

 言葉の変遷は、まさにジェンダー観の変化を表しています。 ユニセックスは男女兼用、ジェンダーレスはそもそも性差がないことを指しています。その先のジェンダーフルイドは、性自認の曖昧さを示す言葉です。英語での表記はgender-fluid。フルイドは「流動的」といった意味です。

 最近、X(旧Twitter)でこんなポストを見ました。「前から男か女かわかんないって言われることが多いんだけど、そんな?笑 別にどっちでもいいけど声もこんなだし。 私だって自分でわからなくなるもん性別~」。シンガーソングライターとして活躍するiriさんの言葉です。そう、どっちだっていいんです。どんな自分であっても、好きな服を着ればいい。この性別の曖昧さは、とくにZ世代にとっては普通のことのようです。

 人間には3つの性があるそうです。「体の性」、「心の性」、「好きになる性」です。性自認はそれぞれ違っている。とりわけファッション業界はこの傾向が強いように思います。メンズ、レディスと区別をつけず、サイズのみバリエーションをつくるといった方法です。私自身、身長が高いこともあって、メンズの服をよく買うようになりました。とくにジャケットはメンズ仕立てのものを最近よく着ています。《クチュール・ド・アダム》という好きなブランドがあります。ここのジャケットは、職人による本格的なテーラリングが素晴らしいのです。くびれのないシルエットや、内ポケットや、ボタンの付け糸の始末など、メンズのつくりがそのままで、女性っぽくなりすぎないところが気に入っています。スーツひとつでも、女性と男性のパターンは違います。女性向けのシルエットはくびれているものが多く、男性向けは直線的。そこにすでにデザインの性差があります。

 くびれたジャケットにタイトスカートというスーツを選ぶことが、女性らしさを演じているのではないかと気になるようになりました。

 ジェンダーフルイドの感覚でいえば、性別で服を選ぶ必要はありません。ときにメンズっぽく、ときにはレディスっぽく。それは靴も同じ。この秋冬シーズンの《ミュウミュウ》は、靴ブランド《チャーチ》とコラボしています。こちらも男性的な革靴をレディスのデザインに再構築。パール男子が増えたり、香水が男女を問わず売れているなど、その現象はライフスタイル全般に広がっています。これはブランド側にとってもメリットがあります。ジェンダーフルイドなブランドは、最初からマーケットが性別関係なく広がるのですから。誰もがその日の気分で、 好きな自分で着こなせる。性別を理由にした区別がなくなること。そんな緩やかで優しい社会を目指していけたら、と思うのです。

THIS MONTH'S CODE

#KANAKO SAKAI

一般社団法人日本ファッション・ウィーク推進機構による「JFW NEXT BRAND AWARD2024」フィジカル部門でグランプリを受賞。ブランドデビューより2年目での快挙。藍染や螺鈿など伝統的技法も用いた服づくりが話題に。

#iri

2014年、『NYLON JAPAN』誌とソニーミュージックが開催したオーディションでグランプリを受賞。2016年にメジャーデビューし、iTunes Storeでトップ10入りを果たすなど話題のミュージシャン。

#クチュール・ド・アダム

クラフトマンシップが生きるテーラリングと、ジェンダーを超えた魅力的なレディスコレクションが人気。






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