ある絵本講座で出会った女子大生のマイさんは、小学生の頃、何をするにものろまで不器用なことを周りから笑われ、学校に行けなくなった時期があったと話してくれました。そのときに、お母さんが彼女に繰り返し読んでくれた絵本が、『たいせつなきみ』(マックス・ルケード・作、セルジオ・マルティネス・絵、ホーバード・豊子・訳、いのちのことば社フォレストブックス刊、平成10年)だったそうです。
あるところに、彫刻家のエリによってつくられたウイミックスという木の小人たちが住む村がありました。そこに住む小人たちは皆、2つのシールを持っていました。美しく才能のある小人には金色のお星さまシールを、何もできないぶきっちょな小人には灰色の駄目印シールを互いにくっつけ合って暮らしていました。
灰色の駄目印シールだらけのパンチネロは、「あいつは だめなこびとだからな」と周りから言われても仕方がないと思うようになります。そして、同じような駄目印の小人たちと一緒にいるときだけ、気が楽になるのでした。
ある日、パンチネロはどちらのシールもつけられていない小人のルシアに出会います。皆がシールをくっつけようとしても、ルシアにはくっつかないのです。不思議に思うパンチネロに、ルシアはエリに会いに行くようすすめます。エリはパンチネロに言います。「シールがくっつくように していたのは おまえじしんなんだよ」と。そして、周りが何と言おうと、ありのままのお前が大切でいとおしいと語りかけます。
エリの言葉を「ほんと」だと思った瞬間、パンチネロから駄目印シールがひとつ落ちたのでした。
作者のルケード氏は教会の牧師ですので、エリは「神様」と読み取ることができるでしょう。マイさんはこの絵本を通して、身近な人だけではない目に見えない大きな存在に見守られていることを幼いなりに感じ、そして、エリの言葉から、少しだけ勇気を出して強くなろうと思ったと言います。それ以来、この本は彼女にとって心に残る一冊となり、今でも手に取ることがあるそうです。
大人になって、マイさんは、自分がつらい思いをしていたとき、お母さんや家族もまたつらかったのではなかったかと考えるようになったと言います。
マイさんに繰り返し絵本を読んだお母さんには、祈りのような思いがあったのではないでしょうか。(国立音楽大教授 林浩子)