『ねないこ だれだ』

【絵本に再び出会う】『ねないこ だれだ』想像の世界に飛んでいく

, コラム

 昭和44年に福音館書店から刊行されたせなけいこさんの『ねないこ だれだ』は、赤ちゃんから幼児まで、長年、親子に読み継がれてきた人気の絵本です。

 時計が夜の9時を知らせます。「こんな じかんに おきてるのは だれだ?」。ふくろう、みみずく、くろねこ、どろぼう…。「いえいえ よなかは おばけの じかん」。あれ、まだ寝ていない子がいます。「よなかに あそぶこは おばけに おなり おばけの せかいへ とんでいけ」。すると、おばけになった女の子が、白いおばけに手をつながれ、一緒に飛んでいってしまいます。

 いろいろな種類の紙を切ったりちぎったりして描かれた貼り絵は、登場人物を際立たせます。特に、夜中に起きているものたちの目は、ギラリと光って表情豊かです。それに対して、女の子の目はどこか夢うつつのようにも見えます。

 「寝ないとおばけにされて連れて行かれるよ。だから、早く寝なさい」と、このお話を「しつけ本」にしたい大人は多いのではないでしょうか。

 なかなか寝てくれないわが家の息子に、この絵本を読んだときの反応は、私の意表をつくものでした。

 「おばけ、いっちゃった。Rくん(自分)もいく!」

 女の子がおばけになって、おばけと一緒に飛び立ったその先の世界を、息子は知りたかったのでしょう。大人は、お話から導かれる「だから、〇〇しなさい」を子供に求めがちですが、子供は、せなさんの描いた世界そのものを味わい、面白がり、日常の生活を想像の世界へと広げていきます。絵本の中の女の子の目は、想像の世界を紡ぎ出していく表情なのかもしれません。

 一方、娘は「おばけ? いやいや」と怖がるのですが、それでも、この本を繰り返し見たがりました。おばけが登場するたびに、「きゃ~こわい、こわい」と家族に体をすり寄せ抱き着きました。安心できる人と一緒なら、怖さも、それを乗り越える跳躍や面白さに変わるのです。

 そのうち、娘の反応とそのかかわりがおかしくて、親子で「きゃ~きゃ~」と、まるで、肝試しのような興奮状態で大騒ぎです。娘は寝てなんかいられません。私は、この絵本は“昼間”に子供と思いっきり“夜の世界”を楽しむ絵本ではないかと思うようになりました。

 『ねないこ だれだ』を「しつけ本」にしてしまうのはもったいないことを、子供たちが教えてくれるのです。(国立音楽大教授 林浩子)


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