平成9年に岩崎書店から刊行された『ラヴ・ユー・フォーエバー』(ロバート・マンチ作、乃木りか訳、梅田俊作絵)は、「育む」ことの尊さを教えてくれる一冊です。
「アイ・ラヴ・ユー いつまでも アイ・ラヴ・ユー どんなときも わたしが いきている かぎり あなたは ずっと わたしのあかちゃん」-お母さんは生まれたばかりの息子を抱っこして歌います。いたずら盛りから、少年、青年へと成長し、変化していく息子の姿に戸惑い、悩みながらも、お母さんは歌い続けます。そして時がたち、年をとったお母さんは、もう歌うことができなくなります。お母さんに会いに来た息子は、今度はお母さんを抱っこして「…ぼくが いきている かぎり あなたは ずっと ぼくのおかあさん」と歌うのです。その夜、自分の家に帰った息子は、生まれたばかりの娘を抱っこして歌いました。「…ぼくが いきている かぎり おまえは ずっと ぼくのあかちゃん」
子育てに限らず、「育む」という営みには、育てる者にも育てられる者にも、ときに苦悩が生じます。相手に伝わらない、自分には理解できない、思い通りにならないいらだちやつらさです。それでも、関わることを諦めず、心を寄せ続けていく中で大切な何かが残っていきます。そして、それは、育てる者から育てられる者へと手渡され、引き継がれていきます。「育む」という営みの中には希望があります。
この絵本を大学生に紹介すると、多くの学生が「親の気持ちに気付かされる」と言います。思春期以降、母親と口をきかなくなったミカさんは、母親にこの絵本を手渡すことができず、リビングのテーブルの上にそっと置いたそうです。「翌日、母は絵本を大切に飾ってくれていました。それを見たとき、私はやっと思春期を卒業したなぁと。そして、母との新たな関係が始まった気がします」と、ミカさんは私に話しました。一冊の絵本が人と人を結び直し、母と娘が新たなときを紡いでいく、きっかけとなったのです。
(国立音楽大教授 林浩子)