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夏の記憶とともに、少女は自ら閉じた扉を爽やかに打ち壊す《映画でぶらぶら》


 ひと夏を過ごすため、祖父の家にやってきた姉と幼い弟。物語を聞いて『冬冬の夏休み』を思い出した。こちらは、小学校を卒業したばかりの兄と幼い妹が、夏休みを田舎の祖父の家で過ごす台湾映画。ただし、両者が描く夏はずいぶんと違う。『冬冬の夏休み』では、子供と大人のあいだには明確な境界線が引かれている。大人たちが直面する生と死、暴力といったさまざまな問題は、兄妹の目からは常に遠ざけられる。それでも子供たちは、大人の社会を覗き見ては、現実の残酷さに触れていく。

 一方『夏時間』では、大人と子供の境目はじつにあやふやだ。オクジュが、すでに大人になりかけた年代だからかもしれない。映画の始まりからしてすでに曖昧だ。冒頭、父は車一台に家財道具を詰め込み、子二人を連れて祖父の家へと向かう。でも元の家と祖父の家がどのくらい離れているのか、そこでの生活はいつまで続くのか、すべてはうやむやにされている。

 やがてそこに、自分の家庭から逃げてきた父の妹も転がり込む。大人びたオクジュに比べ、大人の兄妹はまるで子供のよう。夜、家を抜け出しては酒を飲み、くだらない悪戯をして笑い転げる。重大な相談を家族全員で共有したかと思えば、勝手に家の処理を進め、幼い子らを戸惑わせる。

 新生活に素直にはしゃぐ弟とは対照的に、オクジュの顔は浮かないままだ。これが楽しいだけの夏休みではないことを、彼女はとっくに知っている。父の怪しげな商売のこと。高齢の祖父がこの状況をよく理解できていないこと。母が不在の理由。彼女は大人の事情をそれなりに理解し、でもその鬱憤や不満をうまく表せない。自分ではどうすることもできない現実が、彼女の薄っぺらい体にずしりとのしかかる。

 ずかずかと踏み込んでくる家族を遠ざけるように、少女は自ら境界線を引く。弟と部屋を分け、階段の扉を閉め、蚊帳を吊り、自分の体を小さな殻に閉じ込める。けれど、庭から上がる水しぶきが、家族の笑い声が、その境界線をふいに侵略する。

 ここには常に暗い影が張り付いていて、ただ楽しく美しい夏休み映画とはとても言えない。それでも、少女はやがて高らかな声をあげる。そうして自ら閉じた扉を爽やかに打ち壊す。

metro216_movie_01.jpg家族が過ごす庭つきの一軒家は、実際に仁川にある古い家屋を借りて撮影された。時代を感じさせる造形が見事。

This Month Movie『夏時間』

 夏休み、10代の少女オクジュは、事業に失敗した父と弟とともに、祖父の家を訪れる。そこに離婚間近の叔母も加わり、奇妙な夏休みが幕を開ける。無口な祖父。金銭問題を抱える父。別居中の母。仲はいいがうっとうしい弟。複雑な家族関係と先の見えない生活に、オクジュは不安を隠せない。少女の目を通じて繊細に描かれる、ひと夏の記憶。釜山国際映画祭で4冠に輝いた、韓国の新鋭監督の長編第一作。

2月27日(土)よりユーロスペースほかにて公開。
監督:ユン・ダンビ
出演:チェ・ジョンウン、ヤン・フンジュ


旧作もcheck!

『冬冬の夏休みーデジタルリマスター版ー』

 母の病気を機に、田舎の祖父の家へとやってきた兄と妹。美しい自然のなかで過ごす彼らの夏休みは、どこか残酷さに満ちている。

metro216_movie_05.jpg© A MARBLE ROAD PRODUCTION 1984

監督:ホウ・シャオシェン
Blu-ray:4700円/DVD:3800円
発売元:熱帯美術館
販売元:ポニーキャニオン

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