ⒸCarole BETHUEL ⒸDHARAMSALA & DARIUS FILMS

重力から解放されるまでの時間を描く、まったく新しい宇宙映画《映画でぶらぶら》


 映画『約束の宇宙(そら)』の主人公は、女性宇宙飛行士のサラ。ただし、宇宙を舞台にしたSF映画ではない。ここで描かれるのは、宇宙に行くまでの時間。華々しい活躍や成功ではなく、訓練を重ね新たな環境に馴染もうとする、彼女の心身の変化そのものを映していく。

 フランスで七歳の娘ステラと暮らすサラに突然舞い込んだ、宇宙ステーションでの一年間のミッション。子供の頃から宇宙へ行くのを夢見てきたサラは、すぐにロシアでの訓練への参加を決める。サラは、訓練と宇宙での任務のあいだ、ドイツ在住の元夫に娘を預けることにし、母を尊敬するステラもそれを快諾する。けれど学習障害を抱えるステラは環境の変化に対応できず、徐々に苛立ちを募らせていく。

 訓練も順風満帆とはいかない。宇宙服も、装備も、すべては男性を基準につくられ、女性飛行士は男の倍もの努力を強いられる。仲間からの性差別、また同じ女性たちからの大きな期待が、彼女に重くのしかかる。

 娘との暮らし。仲間との軋轢。宇宙へ行くには、そうした現実の重さを手放し、自分を身軽にしなければいけない。だが娘との関係は日に日に悪化し、訓練も思うように進まない。本当に宇宙へ行けるのか。そもそもこれは正しい選択なのか。宇宙への想いと地球での現実に引き裂かれ、サラはいつまでたっても重力から解放されない。

 右往左往するサラに、同僚がふとこんな言葉を投げかける。「地球にいるうちは、重力を楽しめばいい」。重さに足を取られることを、苦痛としてではなく、喜びとして受け入れるのだ。そうしてサラは、もう一度娘と向き合おうと決意する。

 サラが日々訓練を重ね、新たな環境に自分を適応させていったように、膠着していた親子関係もやがて小さな変化をとげる。修復を目指すのをやめ、二人は新たな関係を受け入れる。ほかの誰とも違う、自分たちだけの関係を。

 サラという主人公、そしてこの映画自体も完璧とはいえない。とくに彼女が最後に選択するある決断は、見る者を戸惑わせるかもしれない。でも不思議なことに、そんなふうに足を引っ張る重たい何かこそが、映画を輝かせる。不完全な彼女たちを、私は、どうしようもなく愛おしく、尊く思う。

metro218_eigadeburabura_2.jpg実際の宇宙機関で撮影された訓練風景は、これまでの映画にない新鮮な驚きを与えてくれる。

This Month Movie『約束の宇宙(そら)』

 宇宙飛行士のサラは、夫と離婚し、七歳の娘ステラと二人暮らし。そんな彼女に、国際宇宙ステーションでのミッション参加のチャンスが舞い込む。長年の夢を叶えるため、元夫にステラを預け、ロシアでの厳しい訓練に臨むサラ。だが宇宙行きの日が近づくにつれ、彼女は仕事と家族とのあいだで引き裂かれていく。監督は、『裸足の季節』の脚本を手がけたアリス・ウィンクール。

4月16日(金)よりTOHOシネマズシャンテほかにて公開。
監督:アリス・ウィンクール
出演:エヴァ・グリーン、マット・ディロン


旧作もcheck!

『マチルド、翼を広げ』

 情緒不安定な母と暮らす、9歳のマチルド。自分を守る術を学んでいく少女の奮闘が、悲しくも愛おしい。


metro218_eigadeburabura_3.jpg© 2017 F COMME FILM / GAUMONT / FRANCE 2 CINEMA


監督:ノエミ・ルヴォウスキー
DVD:3800円
販売元:オデッサ・エンタテインメント

 

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