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出会いと対話を通して、女は世界と対峙する方法を探し歩く《映画でぶらぶら》


 映画監督ホン・サンスは、女と男の恋愛劇だけを描きつづけてきた。彼らはみな出会いと別れ、再会をくりかえし、酒を飲んではぐだぐだと与太話をくりひろげる。ワンパターンともいえる物語なのに、なぜか毎回飽きずに見入ってしまうのが、ホン・サンス映画の不思議な力だ。

 でも、最新作『逃げた女』は、これまでの作品とは少々様子が違う。ここには何人かの女性が登場するが、彼女らは一見、恋愛とは無縁のよう。主人公は花屋で働くガミ。彼女は、夫が出張中、過去に交流のあった3人の女性を訪ね歩き、それぞれの生活を覗いてまわる。

 ガミがまず訪れたのは、ソウル郊外の一軒家に住む先輩のヨンスン。酒を飲み、肉を食べながら、二人は近況を尋ねあう。ヨンスンは過去に泥沼の離婚劇を経験したが、いまは自由を満喫しているようだ。次に訪ねたのは、郊外のマンションで一人暮らしをする先輩のスヨン。ここでもガミは、スヨンと互いの人生を語りあう。そして最後に再会する旧友のウジン。先の二人とは異なり、ウジンとの再会はどこか気まずげだ。

 過去から逃れ、自由を謳歌する女たちは、酒や食事をともにしながらおしゃべりに興じる。なんてことのない会話から、彼女らの人生がぼんやりと浮かび上がるさまがなんとも楽しい。だがそんな楽しい時間の最中、ふいに乱入者が現れる。猫嫌いの隣人。スヨンにつきまとう若い詩人。彼らの乱入は些細な出来事だが不穏でもあり、女たちの幸福な生活の脆さを感じさせる。

 ガミはなぜ3人の女性を訪ねるのだろう。5年前に結婚した夫とは常に一緒に過ごしてきた、と語る彼女は果たして幸せなのか。夫の言葉を何度も口にするガミは、自分と夫との境目が見えなくなっているようにも見える。もしかして、ガミは夫と二人きりの世界から逃げてきたのかもしれない。旧友と会い、対話を重ね、生活を観察することで、ガミは自分なりのものの見方と言葉を探していく。これは、ひとりの女が、世界との向き合い方を再び見いだすための旅なのだ。

 いくつもの出会いと対話を経て、女はついに発見する。ひとり、世界と対峙する方法を。無言で世界と向き合う彼女の横顔は、これまで見たどの場面より美しかった。

metro220_movie_01.jpgガミの旧友ウジン役を演じるのは、『はちどり』での演技も印象的だったキム・セビョク。

This Month Movie『逃げた女』

 夫の出張中、ソウル郊外に住む先輩のヨンスンとスヨンを訪ねるガミ。ヨンスンたちは独身で気ままな生活を楽しんでいるが、会話を重ねるうち、それぞれが抱える悩みや過去が見えてくる。一方、結婚生活について聞かれたガミは「夫とは5年間一度も離れたことがない」とくりかえし答える。そしてガミは、長らく会っていなかった旧友ウジンとも再会するが…。名匠ホン・サンスの最新作。

6月11日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開。
監督:ホン・サンス
出演:キム・ミニ、ソ・ヨンファ、ソン・ソンミ


旧作もcheck!

『マイ・ブルーベリー・ナイツ』

 ノラ・ジョーンズ主演の本作も、新たな視線を手に入れるため旅をする、ひとりの女の物語。

metro220_movie_02.jpg©Block 2 Pictures 2006

監督:ウォン・カーウァイ
Blu-ray:1980円/DVD:1320円
発売・販売:TCエンタテインメント

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