女性のココロとカラダのケアを考え、よりよい未来につなげる「Fem Care Project」。本誌編集長・日下紗代子が、さまざまな人にお話を聞きながら、女性の健康課題や働き方について考えていきます。
3組に1組が不妊の可能性に悩む
いま、企業が従業員向けに「妊活・不妊治療」のサポートを行う動きが広がっている。妊活や不妊治療というと、パートナーとの間で語られているというイメージだが、近年、さまざまな企業が福利厚生の一環としてサポート制度を導入しており、自治体も相談しやすい環境づくりなどを進めている。このような活動が広がっている背景について、株式会社ファミワン代表の石川勇介さんに詳しくお話を聞いた。「ファミワン」は、LINEを活用した妊活コンシェルジュサービス。石川さんによると、不妊で悩んでいる人は決して少なくないという。
「厚生労働省や日本産婦人科学会の調べによると、日本では赤ちゃんの14人に1人が顕微授精も含めた体外受精で生まれています(※1)。また、夫婦の3組に1組が、不妊の心配をしたことがあり(※2)、5・5組に1組が不妊治療を行っています(※3)。じつは、多くの方が妊活・不妊治療を経験されているんです」
年齢が上がれば、どうしても生殖能力が下がる。近年は、価値観や社会の変化により晩婚・晩産化が進んでいるが、その結果、不妊に悩む人も増えているのだと石川さんは言う。
「晩婚化、晩産化は、海外でも同じように進んでいます。ただ、日本の場合は不妊治療をはじめる年齢が、海外に比べて高いんです。だから、体外受精の実施件数は世界的に見ても多いのに、一回の採卵あたりの出生率が低い。日本では、生理などと同様に妊活や不妊治療についても、他人に相談し、オープンに話ができる雰囲気がありませんでした。不妊治療のための正しい情報も少なかった。だから病院に行くタイミングも遅くなってしまうんです」
石川さんは、もともと医療系の企業に勤めていた。医療現場に近い立場でありながら、自分自身が妊活をすることになって、いかに情報が少ないかはじめて実感したという。
「私自身も苦労しました。世に溢れるネット上の様々な情報を見ても、調べてみるととにかくエビデンスが少ないものばかり。私がそのことを妻に言っても、どうしても夫婦だと素直に聞けなかったりするので、たくさん喧嘩もしました。そんな苦労を、次の世代に繰り返したくないという思いで、ファミワンをはじめたんです」
ファミワンは、LINEを使った妊活サービス。アプリからサービスを登録し、約40問のチェックシートに回答すると、適切なアドバイスや専門家との会話ができるようになる。
「ユーザーの6割が、まだ病院に行っていない方です。私たちのサービスは、妊活に悩む手前の人にも使っていただけるように設計しています。一度登録して、しばらくアクティブではなかったユーザーが一年後に突然相談してくるというケースもあります。少しでも多くの人が、もっと気軽に簡単に、少しでも早く正しい知識を身につけてもらえればと思っています。妊活は、文字通り『妊娠するための活動』です。でもそれは、必ずしも病院に行って治療することだけではありません。『妊娠について考えること』も妊活だと私は考えています。結婚していなくても、現時点で妊娠を望んでいなくても、自分の人生において、子どものこと、仕事のこと、将来のことを考える行為そのものが、妊娠・出産と向き合うことでもあります。若いうちから、意識し備えていれば、将来の選択肢も増えていくはずです」
企業が導入する妊活サポート
厚生労働省の調査によると、不妊治療をしたことがある(または予定している)労働者の中で、妊活が理由で退職した人は16%、働き方を変更した人は8%、不妊治療をやめたひとは11%にのぼる(※4)。「仕事と妊活の両立」にも大きな課題がある。ファミワンが企業に提供する「妊活・不妊治療 福利厚生サポート」は、ファミワンのサービスを従業員が無料で使えるほか、研修も行っているという。けれど、ファミワンが事業を立ち上げた数年前は、企業側はその必要性を感じていなかった。石川さんたちが必要性を説明に行っても、産業医への妊活の相談件数が0件であることを理由に、不妊で悩む社員はいないと断る企業もあったという。
「でも、産業医に相談していないだけで、実際に悩んでいる人はいたはずです。そのうちに不妊治療や妊活というキーワードを、メディアなどが発信する機会が増えました。すると、じつは自分も悩んでいたと話す人がでてくる。そうやって、悩みを打ち明ける人が増えていけば、安心して話せる雰囲気が生まれてきますよね。企業側も社員の悩みに気づくことができ、いまでは妊活サポートを導入したいという問い合わせを多くいただいています」
とくに多いのは、単に制度を導入するだけではなく、社内全体で意識を変えたいという声だという。
「妊活休暇制度のある企業もありますが、生理休暇と同じで利用する人が少ないというのが現状です。だから、研修もセットにして、会社全体で妊活への理解を深めるようにしています。研修を受けた方からは、会社として支援する姿勢、意識を示してもらえただけですごくうれしかったといった声もありました」
研修内容については、妊娠・出産に対する多様な考え方に配慮をしつつ、悩んでいる人を一人ひとり救っていくために、各社の人事と一緒に設計しているという。「妊活には世代間ギャップもあります。男性不妊で悩んでいる方からは、上司の理解が進んで話しやすくなったという声もありました」
とにかく、知ることをこわいと思わないでほしいと石川さんはいう。「妊娠も妊活も正解があるわけではありません。お互いを尊重しあい、理解しあうことが大切で、そのためには、正しく知ることです。ちゃんと学んで、向きあって、選択する。その選択は、昔は受け入れられにくかったかもしれませんが、いまは徐々に受け入れてくれる世の中になってきています」
私は、石川さんの話を聞いて「妊活」への考え方がガラリと変わった。とても身近で、自分の人生や、大切な人と向き合うことそのものであると気づかせてもらえた。自分やパートナーが、いつか治療を行うかもしれないと考えると、こうした企業や社会の動きがあるというのは、心強く思った。よりよい未来へバトンをつなぐためにも、まずは知ることから。このTalkが少しでも多くの方へ届くよう願っています。
※1 日本産科婦人科学会「ART データブック(2019年)」、厚生労働省「令和元年(2019)人口動態統計の年間推計」
※2 国立社会保障・人口問題研究所「2015年第15回出生動向基本調査」
※3 国立社会保障・人口問題研究所「2015年社会保障・人口問題基本調査」
※4 厚生労働省「平成29年度『不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査』」
「妊活コンシェルジュファミワン」は、不妊症看護認定看護師を中心とした妊活の専門家に、LINEを使って相談ができるサービス。
LINE登録はこちらから
https://liff.line.me/1645278921-kWRPP32q/?accountId=loa5578f
《INTERVIEWEE》
妊活を再定義し、すべての人に専門家のサポートを届ける
〈about〉ファミワン
ファミワンが掲げるミッションは、「すべての人に専門家のサポートを届ける」ことと「妊活を再定義する」こと。LINEアプリ上で、専門家に相談できるサービスの「妊活コンシェルジュファミワン」や、妊活の専門家による動画を配信する「妊活ライブ」、企業の福利厚生としての従業員向け妊活支援事業「妊活・不妊治療福利厚生サポート」を行っている。企業や自治体、大学、医療機関などとも連携をしながら、社会を変えていくことを目指す。
https://famione.co.jp
株式会社ファミワン
代表取締役 石川勇介
慶應義塾大学経済学部卒業後、飲食系ベンチャー、ヘルスケア系企業で活躍。自身の妊活での苦労がきっかけとなり2015年にファミワンを創業する。

メトロポリターナ編集長
日下紗代子
10月からメトロポリターナ新編集長として就任。風邪を引かないのが強みだが、自身の身体のケアには少しウトイ自覚あり。
Fem Care Project
「フェムケアプロジェクト」は、産経新聞社が主催する、女性の心と身体の「ケア」を考え、よりよい未来につなげるプロジェクト。女性特有の健康課題や働き方について情報発信をしながら考えていく。