国立能楽堂の舞台。1983年に開場した国立能楽堂は、今年9月に40周年を迎える

《特別版》国立能楽堂開場40周年記念企画 能のたのしみ[東京きらり人]

演劇, おでかけ

お話を伺ったのは…

metro245_tokyo-kiraribito_1.jpg

写真左)シテ方宝生流二十代宗家 宝生和英さん
1986年生まれ。東京都出身。父である十九世宗家宝生英照に師事し、22歳で宗家を継承。伝統的な公演に重きを置く一方、他ジャンルとの共演にも取り組み能楽界に新たなる風を吹き込む。

写真右)シテ方宝生流 武田伊左さん
1990年生まれ。東京都出身。2000年入門。19代宗家宝生英照、20代宗家宝生和英に師事。国内外での公演やイベントの企画運営に携わり、能の魅力を発信する活動にも力を入れている。

2人の出演情報は、宝生会公式WEBサイトへ
http://www.hosho.or.jp


能はアートであり文学。
チルアウトできる伝統芸能!?

 千駄ヶ谷にある国立能楽堂は、今年で開場40周年。9月からは「開場40周年記念」を冠した公演も始まる。これは、初心者にとっても能を体験する絶好の機会だ。予習も兼ねて、能の楽しみ方について能楽師に話を聞いた。

 「舞台演劇というと、エンターテイメント性を求められがちなのですが、能の場合は少し違います。ある意味、美術鑑賞に近い部分もある芸能なんです」。そう語るのは、宝生流宗家・宝生和英さん。能という時空の中に身を置く。そうすることによって、考えが整理されたり、心が落ち着く効果があるのだという。「能の囃子(音楽)は、心臓の鼓動に合わせた一定のリズムでリラックス効果があります。だから見ていて眠くなってもいい。むしろ僕は、眠くさせるぐらいのつもりでつくっています(笑)。能空間の中でチルアウトするというか、ぼーっと身を委ねることで、感覚が研ぎ澄まされていくと思います」

 また、能は「アート」と同じように楽しむことができると宝生さんは続ける。「能面の細やかな機微や、光と影の陰影の美しさ。そういった細部に注目するのも面白いと思います。しかも能は、一般的な演劇と異なり、基本的に照明での演出をしません。それは、もともとが自然光の中で演じる芸能だからです。同じ作品でも、演じる場所の環境によってライティングが変わります。劇場によって見え方が異なり、作品の印象も変わってくるんです。その違いも、能の楽しみのひとつです」

 能は、豪華な舞台美術もないし派手な演出もない。でもだからこそ、その空間は研ぎ澄まされ、細部に宿る美しさが際立つ。見る者の想像力も引き出されていく。「シンプルがゆえに、文学に触れたときのように頭の中でいろいろと想像を膨らませることができます」と宝生さんが語るように、観能体験は読書体験に近いのだという。たとえば国立能楽堂開場40周年記念公演でも披露される「船弁慶」という作品。源義経が頼朝に追われ静御前や弁慶と西国へ逃れる物語だが、成人の義経を演じるのは子方と呼ばれる子役だ。「もしかしたら童顔という設定なのかもしれないし、精神的に幼いという設定なのかもしれない。そういうふうに、自分なりにいろいろと想像を巡らせていくことができるんです」

 そして、能の楽しみ方は見るだけではない。習うこともできるのだ。宝生流で能教室の講師も務める武田伊左さんは、その魅力をこう語る。「じつは、能の教室はたくさんあり、誰でも学ぶことができます。舞台に立つこともできる伝統芸能なんです。能を学べば、鑑賞することもより楽しめます。『ずっと足の動きや手の動きを見ていました』『最初は何を言っているかわからなかったけれど、謡うようになって聞き取れるようになった』などと仰る方も多いですね。親子孫三代で能を習い、舞台で共演されるご家族もいらっしゃいます」。

 「能は、苦しさや悲しさといった人間の負の部分を存分に描くことができます。物語の起承転結をつけなくてもいいし、わかりやすいオチを狙わなくていい。子どもが死んで、幽霊が出てきて、それも幻で…などと、ずっと負の感情を表現していても許される。僕は、そういう不条理に触れることで、自分の弱いところと対峙できるような気がしています。だからこそ、自分の人生経験によっても、舞台の見え方が変わっていき、そこがまた面白いところです」

 宝生さんのこの言葉を聞いて思ったのは、能とは鏡のようなものなのかもしれないということ。舞台を見て何を感じるのか、それを確かめに能楽堂を訪れてみよう。


《Information》

9月からはじまる、40周年記念公演

metro245_tokyo-kiraribito_2.jpg

望月 武田孝史 撮影=工房円

 1983年9月に開場した国立能楽堂が、開場40周年記念公演を開催。今年の5月から来年3月にかけて30作品が上演され、9月9日(土)には、宝生和英さんも「船弁慶」という演目で舞台に上がる。また、9月30日(土)には、武田伊左さんの父・武田孝史さんによる「望月」も上演。記念公演の詳細は、国立能楽堂の公式WEBサイトで確認を!


《イベント情報》

metro245_tokyo-kiraribito_3.jpg

7月27日は、40周年プレイベントも開催!

せんだがや夏祭り in 国立能楽堂
@東京メトロ北参道駅

 今年9月の国立能楽堂開場40周年のプレイベントとして、7月に「せんだがや夏祭りin国立能楽堂」が開催される。日本将棋連盟、東京二期会、東京ヤクルトスワローズといった、千駄ヶ谷とその周辺エリアの文化・スポーツ団体からもゲストが登場し、それぞれのジャンルの魅力を実演もしながら紹介。ロビーでは、能楽堂近隣のお店による物販イベントもある。子どもも楽しめるイベントになっているので、家族そろって出かけてみよう!

metro245_tokyo-kiraribito_4.jpg

日時:7月27日(木)13:00〜14:45
会場:国立能楽堂(渋谷区千駄ヶ谷4-18-1)
料金(指定席):一般1500円、学生500円

公演詳細・チケット購入は国立能楽堂特設サイトへ!
https://www.ntj.jac.go.jp/sp/schedule/nou/2023/sendagayasummerfestival.html?lan=j


LATEST POSTS