photo : Naoki Muramatsu edit : Shiori Sekine, Hideki Taira(EATer)

荒井文扇堂の高座扇[東京きらり人]


この街の、ちょっといいものつくる人


【荒井文扇堂の高座扇】

《荒井文扇堂》 荒井 良太さん

伝統を尊重しながら、
自分らしさで切り拓く。

 浅草・雷門近くにある荒井文扇堂は、舞扇や茶席扇子など、日本の伝統芸能・文化で使う扇子をはじめ、ふだん使いの扇子や団扇も取り揃える、明治19年創業の扇子専門店。五代目の荒井良太さんが店主を務めている。

 この日はプロの落語家・三遊亭楽麻呂さんが来てくれた。「内弟子のときに先代のお父様の頃の
“高座扇”を使っていました。扇子は開閉だけではなく、叩いて効果音としても使います。紙がボロボロになり、骨が取れるまで使い込みましたね」。

 落語家の必需品のひとつ、高座扇。高座で披露する演目で仕草や動作を表現する際、たとえば箸や刀など、さまざまなものに見立てるための道具として使う、白無地の扇子だ。「扇子に文字や絵柄が入っていると、広げたときに観客の目がいき、演目に支障をきたしてしまうので、白無地が基本です。白無地だと照明が反射して眩しいと、“鳥の子地“という淡いクリーム色を入れ、生成りっぽくする落語家さんもいらっしゃいます」。

 幼い頃から周囲に後継ぎだと言われることにうんざりし、高校卒業後は京都で漆を学んだという良太さん。「扇子を選ばなかったのは反発心からですが、一度もやらないで判断するのも違うかなと思うようになり、父の兄弟子さんのもとへ修業に入りました。始めると楽しくて、後を継ぐことにしたんです」。 

 “二段張り”という扇子を見せてもらう。「遊び感覚で、扇面の紙を二段にしたのが始まりです。父には仕立てるのが面倒だと反対されましたが、いまでは看板商品になりました。日本古来の伝統の扇子はもちろん、ふだん着でも気軽に楽しめる扇子もつくりたいと思いますが、扇子の正統を守りながら自分らしさを加える難しさに、いつも直面しています」。

 レールを敷かれているみたいで嫌だったというこの道も、23年になる。「父には、まだまだ追いつけません」。先代たちが築いてきた伝統に自分ならではの感性を重ね、日々、奮闘中。生みの苦しみとは隣り合わせかもしれないが、その決意が揺らぐことはない。

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良太さんが考案した二段張りの扇子。扇面の紙は色の違う二段で構成し、それぞれの紙の間に隙間が入る。

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歌舞伎役者や舞踊家が使う舞扇。ふだん使いの扇子よりも大きく重い。


《買えるのは、ここのお店》

浅草駅(東京メトロ銀座線)
荒井文扇堂

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雷門柳小路に店を構え、著名な噺家や歌舞伎役者も愛用する扇子を手がける、扇子専門店。店内にはとりどりの扇子が所狭しと並び、ふだん使いの扇子や団扇、木版刷のポチ袋や和小物はお土産としても人気で、国内外のお客さんが訪れる。

台東区浅草1-20-2
Tel. 03-3841-0088
[営]10:30~16:30(土・日・祝は17:00まで)
[休]不定休
instagram:@arai.bunsendo


高座扇は、ほかの落語家が真打昇進のお祝いであつらえた、名入りのものをいただいて使うことが多いです。

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《案内人》三遊亭楽麻呂さん

故・五代目三遊亭円楽に入門。1991年の真打昇進後は、国内外での落語公演や独演会、講演を行う。大の鉄道ファン。

《出演情報》

「しのばず寄席」

日時:2月20日(月) 12:00開演
場所:お江戸上野広小路亭(台東区上野1-20-10)
東京メトロ銀座線「上野広小路駅」A4出口前
入場料:1500円(予約)、2000円(当日)

ご予約・お問い合わせ
Tel. 03-3833-1789
http://www.ntgp.co.jp/engei/ueno/index.html


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