あるべき社会を想像してみよう[思いやりの基礎知識]


 生理についての相互理解に向けて、企業や自治体では、どんな取り組みが始まっているのか。フェムテック市場の支援を行っている「フェルマータ」の近藤佳奈さんをナビゲーターに迎え、5つの事例を通じて、これからの「生理」を考えてみよう。

ナビゲートしてくれるのは

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fermata株式会社
COO
近藤 佳奈 さん

fermata株式会社
日本初のフェムテック専門店「New Stand Tokyo」やオンラインショップ「fermata store」の運営をはじめ、国内外の企業との連携を図り、フェムテック市場の支援を通じて女性課題の解決に取り組んでいる。「フェムテックフェス」主宰。
https://hellofermata.com


Case: 01
ユニ・チャーム株式会社

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ESG本部 広報室
藤巻 尚子 さん

研修プログラムを通じて気兼ねなく生理を話せる社会へ

 生理用ナプキン「ソフィ」でおなじみの《ユニ・チャーム》は、2019年に女性一人ひとりが自分に合った生理ケアを知ることにより、自分らしく生きられる社会実現を目指す「#NoBagForMeプロジェクト」を発足。その取り組みのひとつとして、男女が正しい生理の知識を身につけるための研修プログラム『みんなの生理研修』を、2020年6月から実施している。その内容は、生理の仕組みや不調、ケア方法から女性特有の健康課題にいたるまでを、企業や団体、自治体や学生に向けて、わかりやすく伝えるというもの。「『みんなの生理研修』を行っていくなかで、男女ともに、義務教育において学んだ生理の情報からアップデートできていない現実が見えてきました。これは、生理がタブー視されているからこそ」と話す藤巻尚子さん。生理を気兼ねなく話せる社会の実現に向けて、今後も研修の実施を拡大していくという。

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《Fermata's Analysis》

リカレントの重要性を感じる社会的意義の大きな取り組み

 いまの働く世代が小学校で受けた性教育では「男女で分けられ、女子だけが生理用品の使い方を教わった」ということがよくあります。生物学的女性は人類の半数を占めるにもかかわらず、毎月のように訪れる月経の仕組みや、それによって起きる心身の不調、その対応方法について、生物学的男性はほとんど知らされないまま大人になっていくのです。それによって起きる社会的弊害はここで紹介するに及びませんが、このことからも、リカレント教育(社会に出た後の学び直し)の需要が非常に高い分野であることがわかります。しかし、企業としてそこにピンポイントでコストをかけることには、まだまだハードルがあることも事実です。ユニ・チャームのような大企業が、無償でプログラムを提供する社会的意義は非常に大きいと思います。もちろん根本的には、義務教育課程での性教育のアップデートが必要です。


Case: 02
株式会社アイル

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広報企画室
吉野 美紀 さん

女性社員の声を生かして生理休暇の有給化を実現

 《ユニ・チャーム》が主催する「みんなの生理研修」の受講を機に、生理に関する取り組みに乗り出したのが、企業向け業務管理システムを提供している株式会社アイル。受講後のアンケート調査で3割が「過去に生理の不調で有給を取得したことがある」、7割が「年次有給休暇とは別に生理休暇が取得できれば取得する」と回答があったことから、2020年12月に生理休暇の有給化に踏み切った。導入から1年目で生理休暇の取得率は約22%に。現在では毎月取得している社員もいるという。制度化に伴い、社内アナウンスを実施するほか、社外からの反響などを通じて、生理経験がない社員も「生理」に対する認識が向上。“社員それぞれにさまざまな事情がある”という意識づけに。ほかにも、上記のアンケート調査において「社内トイレに生理用品があったら便利」という回答が100%だったことから、全社屋のトイレに生理用品を配置。社員のみならず、来訪者も自由に利用ができるようにしている。「生理中は、出社が憂鬱と感じやすい時期。家庭から生理用品をいくつも持参せずとも、いつでも気軽にお手洗いに行ける安心を感じてもらいたい」と話す、広報企画室の吉野美紀さん。社員が持つさまざまな事情を考慮した環境に整えられるよう、今後も定期的にアンケート調査を実施し、社員の声を参考に働きやすい環境づくりを行っていくという。

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《Fermata's Analysis》

社内外広報の重要性を考えさせられる事例

 労働基準法第68条には、生理休暇の定めが記されていますが、実際に働く女性からは、「取得しにくい」または「取得しても自分が損するだけ」といった声をよく耳にします。厚生労働省による「令和2年度雇用均等基本調査」によると、生理休暇を申請してきた人の割合は、女性労働者のうち0.9%にとどまっていました。また、生理休暇を有給としている事業所は全体の29%にしかおよびません。制度としてはすでに存在するのに、使用率に響いていないということでもあります。株式会社アイルでは、無給であった生理休暇を有給にするという取り組みでしたが、人事制度の社内外広報がいかに重要かということを考えさせられる事例でもあります。こうしたことが、会社の就業規則やルールをあらためて見直すきっかけとなればと思います。


Case: 03
株式会社エムティーアイ

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ルナルナ事業部
中村 茜里 さん

生理日管理アプリのデータを活用して新たな知見を得る

 女性の健康情報サービス「ルナルナ」の開発・運営を行う株式会社エムティーアイでは、医療機関などとともに、アプリユーザーから得たビッグデータを活用して、生理研究を行っている。最近まで医療現場における月経周期の一般的な定義は、60年前の650人を対象とした米国の調査結果を基にしたものだった。ところが「ルナルナ」は、2000年のサービス開始から、約30万人ものデータを集計。世界的にも前例のない解析結果は、米国産婦人科学会の機関紙に論文が掲載されるほど。平均月経周期の年齢による変化や、年代別の高温期の変化など、この研究結果は女性の健康における基礎的な情報をアップデートしている。また同社は現在、月経周期や基礎体温の正常範囲を再定義するための東京大学による研究に協力している。「多くの『ルナルナ』ユーザーが、インセンティブがないにもかかわらず、研究に協力してくれていることは、我々の研究活動を前向きにとらえてくださっているあかしだと受け止めています」と、ルナルナ事業部の中村茜里さん。最新の適切な情報を発信する啓発活動を通じて、女性の健康課題などについての正しい知識や理解が社会に広まるきっかけづくりにも力を入れていきたいという。

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「ルナルナ」ユーザーが記録したデータを活用して研究。解析をもとに、排卵日予測の独自のアルゴリズムを開発し、ユーザーに還元している。
データ提供:国立成育医療研究センター、株式会社エムティーアイ
 

《Fermata's Analysis》

タブー視されてきたジャンルのこれからの発展に期待

 「フェムテック」という言葉を創ったイダ・ティン氏が手がけた、ドイツ発の生理周期管理アプリ「Clue」は、メインポリシーとして“一切のユーザーデータを販売しない”ことを謳っています。この方針が多くの女性に共感されているように、生理にまつわる個人データは、きわめてセンシティブで、匿名性が高く守られるべきデータであるという考えがあります。一方で、タブー視されてきたジャンルであるがゆえに、そのデータを活用した研究が進まず、その結果として、市場の発展が遅れているのも現実。「ルナルナ」ユーザーが“インセンティブがなくても協力している”という点は、まさにそういった女性たちの切実なニーズと期待が込められていると感じる事例ですね。今後の研究結果にも注目です。


Case: 04
株式会社ファミリーマート

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生理用品25種類をファミマ全店で特別価格に※

 コンビニエンスストア「ファミリーマート」では、創立40周年を機に、“ファミマる。”(=ファミリーマート店舗に足を運ぶ)きっかけづくりとして、「40のいいこと!?」キャンペーンを実施。そのテーマのひとつ「『あなた』のうれしい」では、全国の計約1万6400店(沖縄を除く)において、生理用品25種類を特別価格で販売した(※)。“生理の貧困”問題に向き合い、女性にとって生活必需品の生理用品を割り引くことで日々の生活の応援につながればと、このキャンペーンの実施に至ったという。また昨年4月には、「ファミチキ」などの“ホットスナック袋”をレインボーカラーに変更し、LGBTQへの理解を表明するなど、すべての人が自分らしく活躍できる社会を目指す試みを行っている。今後も社会課題に向き合い、貢献できることを模索中だという。

※キャンペーンは2021年末で終了しています
 

《Fermata's Analysis》

サービスに頼るだけでなく必要なサポートを求め続けること

 消費者の目が肥え、一人ひとりの意見がSNSなどを通じてリアルタイムで世界中に共有される時代。大企業のCSRに対する評価が、ますます重要になってきていると思います。短期的な収益のみを追い求め、自分たちさえ勝ち抜けられればいいという方法では、今後若い世代からの支持は得られません。サステナブルな企業経営と、コストをかけて社会課題に取り組むことは両立しうるということを、ビジネス界全体で証明していく時期に入っています。このような取り組みは、今後ますます増えていくでしょう。しかし、とくに生理用品などに関しては、企業や個人の活動には限界があるため、やはり国や自治体による制度の整備や、永続的なサポートを求める声は、積極的にあげていきたいものです。


Case: 05
神奈川県

協賛企業を巻き込んだ“生理の貧困”へのアクション

 コロナ禍などの影響もあり、生理用品を購入できない“生理の貧困”が社会問題となってきた。その解決に向けて、神奈川県はさまざまな方法で生理用品を無料配布している。その一例が、県施設(計10カ所)において相談窓口などの一覧と合わせて生理用品の配布を行い、支援を必要とする人にわかりやすく情報を届けるというもの。ほかにも、SDGsを活用した取り組みとして、県内の大学生・大学院生に向けた配布も行っている。これは、“共助”という形式で、賛同企業からの広告料収入で費用をまかなうもの。協賛企業は、自社のロゴやメッセージをナプキンの包み紙に掲載し、その広告料を支払うかたちで事業費を負担。県から企業へ賛同を呼びかけることにより、地域社会全体で学生を支える意識が生まれるとともに、企業側が社会課題を認識することにもつながっていくという。また、生理用ナプキンの封入作業を障がい福祉サービス事業所に依頼することで、障がい者雇用にも貢献している。大学・大学院での配布において、生理用品を受け取った人にはアンケートを実施。県施設での配布を担当している共生推進本部室でも「生理の貧困」実態調査アンケートも行っている。集計結果はホームページで公開され、今後の取り組みにも生かしていく方針だ。

(情報提供)
県施設での配布について:神奈川県 福祉子供みらい局 共生推進本部室
大学・大学院での配布について:神奈川県 政策局 いのち・未来戦略本部室

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関東学院大学、神奈川大学、東海大学で配布されている、協賛企業のロゴ入りの生理用品

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かながわ県民センターほか計10カ所の県施設では生理用使い捨てナプキン(昼用・夜用)を1セットにして無料配布
※すでに配布終了している場所もあり。最新情報は、神奈川県のホームページにて確認を
 

《Fermata's Analysis》

民間に支援を頼らず永続的に行われることが次の課題

 自治体が積極的に“生理の貧困”に取り組むことはもちろん、今回の神奈川県のアクションのように、それを手厚く発信していくことは非常に重要です。せっかく生理用品を配布しても、必要としている人がその情報にアクセスできなければ、結局は使われず、需要のない制度であると誤認されてしまうからです。ただ一方で、私の周囲では、この取り組みを評価する声もありつつ、「各施設のトイレで無料で使えるトイレットペーパーには広告がついていないのに、生理用品を無料で使うために、なぜ広告を見なければいけないのか」という辛口の意見もありました。さらには、自治体が実施する施策において、運用資金を民間の支援に依存している部分があることも懸念点です。それでも、対策があるということは素晴らしいことです。どうかそうした活動を続けていただいて、より永続的な支援が実現できる制度整備をお願いしたいです。


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