じんわり《音楽日々帖》


 年末ということで、2020年ベスト“じんわり”ソングを発表いたします。

 まずは、寺尾紗穂「夕刻」。新作『北へ向かう』のオープニング曲です。時々刻々と変化する夕空と、鳥の死との取り合わせ。石牟礼道子の詩の世界観を、歌とピアノとノイズギターでダイナミックに描き上げます。そしてたっぷりの余韻から、父・寺尾次郎の逝去に際して書かれた「北へ向かう」へとトラックが移ると、先ほどまで壮大に描かれていた死が、掌にすっとあたたかな実感を持って落ちてくる。見事なコントラストでした。

 2曲目は、ジョナ・ヤノ「shoes(feat. tatsuya muraoka)」。ゲストに迎えたのは離別した実の父親。子供時代の記憶として、かかとの光らないウルトラマンのシューズが出てきます。お父さんの記憶では、息子の足サイズは16cmのままなんですね。親子の溝を埋めるかのように重なるボーカルは、親に対して抱くヒリヒリとした感情を思い起こさせました。

 そして、折坂悠太の「トーチ」。こんな状況でただひとり笑ったり喋ったりしている“お前”と、ひとり涙をこらえる“私”。3月の配信ライブで聴いて以来、ずっと歌詞の意味を考えていました。最初は怒りの歌だと思ったんです。でもある日、コロナ禍の子育てで自分は心折れているのに、我が子は元気にはしゃぎ回っているという状況が、ふと可笑しくなる瞬間があって。“私”はそんな“お前”に救われているという意味にもとれて、どちらの気持ちにも寄り添うすごい歌だと気づきました。今年1年、震える心をじんわり温めてくれてありがとう。

 

寺尾紗穂『北へ向かう』

文筆家としての顔も持つシンガーソングライター。ジャケットの小さな生き物に向ける優しいまなざしが象徴するような、誰かを想い寄り添う歌アルバム

metro214_music_01.jpgP-Vine Records 2020

 

JONAH YANO『souvenir』

トロントを拠点とするシンガーソングライター。出自に思いを巡らせる内省的なデビュー作。父との再会をドキュメンタリータッチでまとめたMVも必見

metro214_music_02.jpgInnovative Leisure 2020

 

折坂悠太『トーチ』

台風などの自然災害を受け、折坂が作詞・butajiが作曲を担当して制作されたシングル。MVには日本語のほか、英語・中国語・韓国語の訳詞がつけられている

metro214_music_03.jpg配信限定 ORISAKA YUTA / Less+ Project. 2020






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