それは変化恐怖症じゃない?と、ロスタムが歌うメッセージを耳にしたとき、胸につかえたモヤモヤが腑に落ちた気がしました。世界の大転換期に国内海外あわせて3回も引っ越した私にとって、この1年は変化の連続で、苦しみや痛みに診断が下りてほっとするような感覚で『Changephobia』を聴いています。くぐもったサウンドプロダクションに沈潜しつつも、ロスタムらしい過剰気味なリズムやヘンリー・ソロモンが吹く自由なサックスに、少しだけ前に進みたい衝動をくすぐられる。そんなムードの作品が、この夏ほかにも届いています。
“勇敢なムード”と冠したハイエイタス・カイヨーテの『Mood Valiant』は、コロナ禍やネイ・パームの乳がん闘病をくぐり抜け、強度と濃度を増したパワフルな1枚。アルバムのハイライトは、きらびやかなホーンセクションが夏の太陽を思わせる「Get Sun」。音の要素が盛り沢山なのに、変則リズムで渦巻きながらエネルギーの塊へまとまっていく展開は圧巻です。
コーラ・ボーイの「Don’t Forget Your Neighborhood」はアヴァランチーズを迎えたキラッキラのサマーチューン。この時期ならではのご近所讃歌かと思いきや、アルバム『Prosthetic Boombox』のラスト「Kid Born In Space」で吐露されるのは、ハンディキャップを嘲笑された少年時代の苦悩。じつはこの曲、コンプレックスも含め自分を形づくってくれたこの街が好きという、ありのままの自分讃歌でもあるんですね。
トンネルの先の景色が見えるような音楽に励まされる、2021年の夏です。
ROSTAM『Changephobia』
Vampire Weekendの元メンバーでHAIMやClairoなどの作品に関わるプロデューサー。ジェンダーや政治など価値観の転換期に変化することへの恐怖をそっと包み込む2ndアルバム

HIATUS KAIYOTE『Mood Valiant』
メルボルンのフューチャーソウルバンド。ブラジルのトロピカルムードをまとった6年ぶりのアルバム。嵐を乗り越えた者だけが辿り着く、強さと慈愛に満ち溢れた輝かしき境地

COLA BOYY『Prosthetic Boombox』
Avalanchesにもフックアップされたシンガー/マルチインストゥルメンタリスト。ディスコからねちっこいファンクまで、真夏のダンスフロアにぴったりなデビュー作
