photo: Shin-ichi Yokoyama edit: Hideki Taira(EATer)

向島めうがやの足袋[東京きらり人]

コラム, おでかけ

この街の、ちょっといいものつくる人


【向島めうがやの足袋】

《足袋職人》 石井健介さん

十人十色、百人百様の
 “たったひとつ”をつくる。

 東京スカイツリーから10分ほど歩くと「めうがや」と書かれた看板が見えてくる。入り口には「御誂え承ります」の張り紙が。ここは足袋一筋で150余年、全国に数軒しかない、誂え足袋の専門店だ。

 石井健介さんは“すみだマイスター(墨田区を代表する、付加価値の高い製品づくりを体得した技術者)”の称号をもつ、足袋職人。客筋は向島花柳界の芸者衆をはじめ、日本舞踊や茶道、落語や相撲など、古典芸能を生業とする人たち。遠方から訪れる一般の人もいる。注文の8割が、お客さん一人ひとりの足型をとってつくる、フルオーダーメイド。

 「お客様の足に合う、履き心地のよい足袋をつくるのが、私どもの使命です」。

 誂え足袋は、石井さんと父で五代目の芳和さん、母・きよ子さんの分業でつくられる。採寸→型紙づくり→生地の裁断→縫製→仕上げと工程を重ね、とくに採寸と縫製は、履き心地の決め手となる、重要な部分だという。

 「人の足は左右で形や大きさが異なるので、細かく計測していかなければなりません。きつめ・ゆるめの好みや、むくみの有無といった悩みごとなどもお聞きしながら、50分ほどかけて記録していきます。縫製は部位によって5台のミシンを使い分けていて、最も高い技術を要するのが、つま先部分の『つまつけ』。父の担当で、複雑な縫製ができる専用の八方ミシンを使い、布が指の回りを包み立体的になるよう、足袋の向きを変えながら縫っていきます。こはぜ(金物の留め具)と掛け糸(こはぜをひっかける糸)は手縫い。一日につくれるのは10足程度です」

 初回の注文で6足誂え、1足目が発送できるのは約4カ月後。届いたら試し履きと洗濯を繰り返して肌なじみや生地の縮み具合などを確認してもらい、問題がなければ残り5足に取りかかる。完納は最短で半年後だという。

 お客さん一人ひとりに合わせて誂えるのは、並大抵のことではない。「足に気持ちよくフィットし、履きジワの少ない、機能性と見た目の美しさを備えた足袋が理想です。そのためにはお客様と入念にコミュニケーションをとり、ご満足いただけるよう、仕上がりの精度をより高めなければなりません。そのためには技術を磨き続けなければならない。毎日が修業です」。

 足袋は和装の必需品。“江戸の履き倒れ”という言い回しもあり、 昔から、足もとへのこだわりは粋だったのだろう。“満足”は、足が満たされると書く。丹精を尽くして誂えた一足は、お客さんの心と足を満たし、今日も誰かの足もとを支え、美しく魅せている。石井さんの修業のたび(足袋)は続く。

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右手で八方ミシンのハンドルを回し、左手で足袋を動かしながら縫っていく。これが難しい。

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着物の礼装に白足袋は必須。色柄の足袋はおしゃれ用に。右端の「半足袋」はスリッパのように普段づかいでも。


《買えるのは、ここのお店》

押上〈スカイツリー前〉駅(東京メトロ半蔵門線)
向島めうがや

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「みょうがや」と読む。日本橋にあった本店から暖簾分けし、江戸末期の1867年(慶応3年)に浅草で創業。関東大震災後の区画整理を機に、現在の向島に移った。自店の既製足袋もあり、既製足袋をベースに1カ所修整を加える、イージーオーダーも可能。

墨田区向島5-27-16
Tel. 03-3626-1413
[営]9:00~18:00
[休]日・祝

https://www.mukoujima-meugaya.com


昨年公開された映画のロケ地にもなった、下町の情緒を残す足袋の老舗です。ぜひ、足を運んでみてください。

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案内人
黒須悟士さん

一般社団法人 TAKUMI-Art du Japon 事務局長。日本の伝統工芸の保存と継承、未来に向けた発展のため、精力的に活動している。


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