この街の、ちょっといいものつくる人
【うつわ松室が目利きするうつわ】
《うつわ松室 主人》 松室真一郎さん
確かな経験と感性から
滲み出る美意識の凝集。
神楽坂駅1A出口を出て前方右手の道路に入り、少し歩いた先の路地へ。道なりに進んでいくと立てかけられたリヤカーが見え、木造二階建ての家屋が目に留まる。いかにも旧家の趣の建物は、昭和前期に建てられた大工寮。国の登録有形文化財に指定され、壁にはそのことを示すプレートもある。ここの2階の一室が、松室真一郎さんが主宰する「うつわ松室」。酒器、茶器、食器、花器の販売を中心に、個展や企画展、着物や足袋のオーダー会なども開催している。「昔から、うつわや和装が好きなんです。以前は靴磨き屋でしたが、好きが高じて店を始めました」。
うつわに興味をもったのは10代から。「コーヒーカップの持ち手がイヤで、持ち手のないものを探して見つけ出したのがきっかけです。当時は、デザインやフォルムに惹かれただけでした(笑)。20歳になってからは、よい酒器でお酒を飲みたいと思うようになって。気に入ったものを使い続けていくと経年変化を実感し、愛着もわき、どんどんのめり込んでいきました」。写真下(上)の酒器は“粉引”という陶器。「新品は乳白色ですが、20年ほど使うと色が変わっていくんです。使うほどに育つのが、うつわの魅力のひとつだと思います」。
写真下(中)は、ガラス作家の艸田正樹さんがつくったうつわ。「自然光が演出する、たゆたう水のような雰囲気が大好きで、使わずに置いて楽しんでいます。お客様にも澄んだ空気の中でご覧いただきたく、毎年1月は艸田さんの個展から始めています。日中は電気を消して外光で、夜は和ろうそくを灯して。とても神秘的です」。
取りそろえるうつわを選ぶときの決め手は、“しん”の有無だという。「作品には、ことに、作家の人となりと気持ちが表れます。手にしたときに、ストンと体の中に入ってくるものしか扱いません」。芯、心……。膨大な数のうつわを見て、使い続けてきた松室さんならではの鋭い感性による境地だろう。「最初は何か好きだな、手ざわりがいいな、といったフィーリングを大切にしてほしいです。そして、お店の人やだれかを頼らず、自分が気に入ったものを“自分の目”で見つけること。好きなものに出合ったら、どんどん使ってください。そうすると視野が広がり、わかることが増えてくると思います」。
松室さんは日本酒とワインも好きで、現在、酒類販売業免許を申請中。「おいしい飲み方を突き詰め、少しずつ実践できるようになってきました。お酒を入り口に、うつわや着物の新たな楽しみ方を提案していきたいです」。
うつわ屋の枠を超え、“好き”の深部をひたむきに表現していく。

粉引の酒器。左から新品、松室さんが約3年、6年、20年使ったもの。同じ粉引でも作家が違うと、経年変化の仕方も異なるそう。「洋食器にはない、土ものならではの面白さだと思います」。

艸田さんが手がけたうつわ。「自然光との相性がとてもよく、窓の近くに並べています。薄いのに丈夫で、傷がつきにくいところも気に入っています」。普段づかいにも重宝しそうだ。1万1000円。

須賀保中さん作の瀬戸黒茶碗。黒色は、焼成途中で引き出し、冷水につけて急冷する“引き出し黒”という技法から生まれる。使い続けると色の深みが増し、なまめかしい表情になるそう。16万5000円。
《買えるのは、ここのお店》
神楽坂駅(東京メトロ東西線)
うつわ松室

靴を脱いで木の階段を上り、廊下を振り向いた突き当たりの右手前に店を構える。店内は茶室のような雰囲気で、和装の松室さんが、茶会の亭主のように迎えてくれる。オンラインショップにも力を入れていて、自身で撮影しているそう。ぜひ覗いてみて。
新宿区横寺町31-13 一水寮202
Tel. 03-6280-7987
[営]土・日 14:00~19:00
[休]月~金・祝