この街の、ちょっといいものつくる人
【石川べっ甲製作所の江戸べっ甲製品】
《石川べっ甲製作所 代表取締役》 石川浩太郎さん
ひと押しごとに心血を注ぎ、
甲羅に新たな命を宿す。
独特な風合いの模様と艶めくあめ色が美しい、べっ甲製品。ウミガメの一種であるタイマイの背中・腹・縁(爪)の甲羅を使い、加工・細工を施したものだ。石川べっ甲製作所は、1802年(享和2年)の創業以来、ひたむきにべっ甲と向き合っている。「べっ甲はヨーロッパで栄え、長崎の出島に伝来。東京には江戸幕府が開かれたころに伝わり、甲羅に単純な細工を施したものが“江戸べっ甲”の始まりとされています。その後、元禄期に甲羅同士を貼り合わせる技法が伝わり、緻密で複雑な造形が可能に。そこから独自の進化と発展を遂げ、今日に至ります」。
江戸べっ甲は、“貼り合わせ”の技術が東京都の『伝統工芸品』に指定され、経済産業大臣から『伝統的工芸品』に認定されている。「製造は、つくる製品に合わせてどの甲羅を使うのかを見極め、柄を考えて切り出し、削り、甲羅を貼り合わせて生地を加工するところから始まります。薄い甲羅を板状にして、必要なパーツをつくっていくのです。生地ができてから、曲げる、ねじる、延ばす、パーツ同士をつなぐ、といった加工に取り掛かります。元の素材から新たな生地をつくるという工程は、ほかの工芸品には見られません」。
貼り合わせは、甲羅に含まれる“膠”の成分を利用し、水、熱、圧力のみで行う。「削った甲羅を水に浸して水分を含ませたら、甲羅同士がズレないようにテープなどで固定し、濡らしたベニヤ板で挟みます。さらに熱した鉄板で挟み、均一に圧力がかかるように継ぎ板を載せたら、万力で加圧。つくる製品の厚みに合わせて寝かせ、接着します」。甲羅の個体差、工房の温度・湿度によって操作が異なり、鉄板の温度や圧力の加減を見誤ると、焦げたり、つぶれすぎたりする。「生地が悪いと、その後の作業や仕上がりにも影響します。職人の知識と経験がものをいう、とても重要な工程です」。
天然素材で体にやさしく、軽い。体温でわずかに変形し、素肌になじんでいく。古来、べっ甲は和装小物や眼鏡など、人が身につけるものをはじめとして、重宝されてきた。「べっ甲の新たな価値として、インテリアをつくれないか模索中です。ラグやカーテンなどに柄ものを取り入れるように、暮らしの中にべっ甲のまだら模様を楽しめるものがあるといいなと思っていて。視野を広げることは業界全体の活性化にもつながると思うので、べっ甲の可能性を信じ、選択肢を増やしていきたいですね」。
まだまだ、べっ甲にできることがたくさんあるのではないか。七代目 石川浩太郎さんの飽くなき探究心は、さらに高まる。

加工前の背中の甲羅。甲羅は必ず13枚で、黒い部分とあめ色の部分が混在し、いわゆる“べっ甲柄”を形成する。何をつくるかによって背・腹・縁の甲羅を使い分け、硬さや厚さもさまざま。

甲羅の貼り合わせの様子。「甲羅に水分を含ませる時間、鉄板の温度、圧力、接着させる時間は、いつも同じではなく、マニュアルがありません。そこが難しさであり、醍醐味でもあると思います」。

奥深い色合いが印象的なブローチ。あめ色のべっ甲は希少で、日本でしかつくられないそう。天然素材が織りなすまだら模様は、唯一無二の美しさ。左から4万4000円、3万8500円、4万4000円。
《買えるのは、ここのお店》
錦糸町駅(東京メトロ半蔵門線)
江戸鼈甲屋

2011年、亀戸に石川べっ甲製作所の直営店としてオープン。腕時計や眼鏡、かんざしやネックレスなど、べっ甲製品を幅広く販売している。修理やメンテナンスも行っており、他店で購入したものでも対応してくれるので、困ったときは相談してみて。
※石川べっ甲製作所の商品は「東京伝統 工芸品展」でも展示販売されます
江東区亀戸2-36-10
Tel. 03-3636-3595
[営]月~土 10:00~18:00
[休]日・祝