illustration: Shogo Sekine

#無加工主義は敵か味方か?《東京#CODE》


 アイスタイルが発表した下半期トレンド予測で選ばれた「#無加工主義」というハッシュタグ。たしかに最近インスタ投稿でも「#nofilter」や「#無加工」などを見かけることが増えました。その投稿はときに、感動的に美しい夕陽だったり、虹だったり、景色系も多いのですが、一方で素に近いリアルな自撮りに「#無加工」とつける投稿も目立ちます。

 「インスタって疲れるんですよね。写真のセンスも問われるし、加工しなきゃだし」。先日話したZ世代女子の言葉。彼女がいま使っている、と教えてくれたのが 「TapNow」というアプリでした。「これだと5、6人の友人とリアルタイムの写真をシェアするだけなので、加工とかいらないし、普段の自分の近況報告をする気軽さでちょうどいいんです」と。なーるほどねー。不特定多数の人に自分をひけらかすよりも、より小さなコミュニティでリアルな日常を伝える方が気楽、ということ。なかなか面白い現象です。

 「だって、出会い系アプリとかは加工バリバリの写真だとお互いわかってしまって、何にも信じられないじゃないですか。だから『#無加工主義』って好感度高いんですよ」と。

 すっかりマスクなし生活になり、いろんなことがリアルに回り出し、加工画像とのギャップに違和感を持ち始めたのかもしれません。Zoom会議も減り、対面が増えると、リアルで会ったときの気まずさってありますよね(笑)。マスクを外して直接会ったら、“あれ?”ってことも…。

 いろんなことに嘘がつけなくなりました。とはいえ、「#無加工主義」のハッシュタグを見ても、本気の素顔(荒れた肌や、ニキビだらけの顔とか)を上げている写真って、じつは少ないように見えるのです。「え、当たり前じゃないですか。無加工に見えるくらいメイクがうまくてカバーできるから『#無加工主義』ってつけるんですよ」(前出の女子より)。ふむふむ。 最近のメイク系YouTuberやTikTokerを見ていると、加工並みにうまいメイク技が人気コンテンツのようです。加工並みに鼻が高くなる、加工並みの陶器肌、加工並みの小顔メイクetc.。そんなタイトルが並びます。

 そう、「#無加工主義」とはフィルターに頼らなくても美しく見える(撮れる)ことのようです。危ない、危ない。うっかりナチュラル主義を気取って、自分のシワやシミのある顔を晒すとこだった…(危)! 

 数年前、アメリカの美容業界では、広告写真をデジタル修整によって加工することを規制する動きがありました。写真修整が当たり前だった時代に、過度な写真加工は消費者に不誠実だと、海外で活躍するカメラマンが話していました。そこから進んで、いまやAIモデルも登場する時代ですから、何が本当で何が嘘か、その境界線はまた混沌としています。

 消費者庁は今年10月から施行するステルスマーケティング(通称ステマ)の法規制について発表しました。つまり、宣伝の目的を隠したやらせやサクラ的な行為が厳しく取り締まられる、ということです。SNSにはびこる嘘も厳しくジャッジされるようになって、ますます、リアルじゃない投稿はフォロワーを裏切るように見えるのかも?

 「正しさ」は必要ですが、ときには窮屈にもなります。とりあえずは、加工よりも、いまをリアルに楽しまなきゃですね。

THIS MONTH'S CODE

#下半期トレンド予測

アイスタイルが発表している「@cosmeベストコスメアワード」で、いくつかのトレンドキーワードが提示されている。

#TapNow

撮影した写真を友達間でホーム画面に送り合うことで、気軽なコミュニケーションが楽しめる。SNS疲れのZ世代にも人気のSNSアプリ。

#ステルスマーケティング(通称ステマ)の法規制

消費者に広告や宣伝であることを明示せず、隠したままで広告・宣伝を行う「ステルスマーケティング」。いわゆる「ステマ」が景品表示法によって規制される。


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