text: Sayoko Kusaka photo: Shigeo Kosaka edit: Kohei Nishihara(EATer)

多様なひとが、発信するということ[フェムトーク]


女性のココロとカラダのケアを考え、よりよい未来につなげる「Fem Care Project」。本誌編集長・日下紗代子が、さまざまな人にお話を聞きながら、女性の健康課題や働き方について考えていきます。


 「勇気が出た。励みになった」。そんな声が集まっている企画展がある。日本新聞博物館(横浜市)で8月20日まで開催している企画展「多様性 メディアが変えたもの メディアを変えたもの」だ。実はこの展示に、弊誌も参加している。担当の方が、昨年2月と3月に掲載した巻頭特集「思いやりの基礎知識」と「相互理解の現在地」をみて連絡をくださったのだ。光栄なオファーに心を弾ませ、先日私も現地にいった。横浜高速鉄道みなとみらい線の日本大通り駅直結、エスカレーターをあがったすぐ先にそのスペースはある。「多様性」という切り口で全国から300点以上の記事や広告事例が一堂に会す空間からは、当事者の証言、記者たちの地道な取材と、よりよい社会を願う想いが交錯し、いまにも声が聞こえてきそうだった。「希望の企画展と言ってくれる人もいる」と話す館長の尾高泉さんに、企画のきっかけや、開催に至るまでの想いを聞いた。

わたしたちの記録を残して

 博物館を運営している「日本新聞協会」は、新聞社、通信社、放送局などが加盟している一般社団法人だ。報道の自由を支える使命をもって、ビジネスを強化するために必要な活動も行っている。日刊新聞がはじめて生まれた横浜の地にこの博物館をつくり、さまざまな展示を行ってきた。今回の企画展のきっかけについて、尾高さんはこう話す。「私は、いわゆる“男女雇用機会均等法元年世代”で、1987年に新聞協会に入りました。大学で憲法を勉強し、報道機関を支えることで民主主義の維持発展に貢献したいと思ってきました。この世代の女性は、子供を産んで復職するには決死の覚悟が必要でしたが、同世代の女性記者たちは、深夜勤務もあるなか、もっと厳しい環境でメディアの中に多様性を作ってきました。定年期を迎えるいま、この視点で何かまとめたいと思っていました」。同世代の女性たちからも、「メディアでの自分たちの関わりと社会の変化を、記録として残してほしい」と後押しがあったという。「DE&Iという言葉が注目されはじめ、学校教育に多様性の観点が入るようにもなってきた。そこで昨年夏に、全国の会員社に『多様性を扱った事例を集めたい』と手紙を出したんです。すると、ジェンダーを中心に多くの事例が集まりました。編集のみならず、事業部門からも。さらに長年の自分のネットワークの中から、犯罪被害者やハンセン病など、様々なマイノリティーの視点で活動してきた方にも一斉に声をかけて。よしこれでできるぞ、と」

多様性を促進する博物館と、
連鎖し進化する企画展

 世界的に、図書館や博物館などの社会教育施設は、多様な人が交わり語り合う拠点のひとつとして再定義されている。「当館も、歴史に強い人、子育て中、30代、40代、50代、男女混成と多様なメンバー体制で準備を進めました」。その一方、尾高さんらも想定していなかったことが起きたという。「実は、一度声をかけた方から、その周りの方に広がり、どんどん展示数が増えていたんです」。今まで声を出すことのなかった人がまだまだいることを改めて感じた尾高さん。「いまメディアの20代には、女性も増えていて、男性も含め若い世代は、新しい感覚で自分のことを書いたり、問題提起したりしている。社内では孤軍奮闘していても、社会を見渡してみると、実は社会の『ど真ん中』のことに向き合っていたりする。特ダネ記者も大事だけれど、今回は、見えないもの、聞き取りにくい声を伝えようとしてきた無名の記者たちにこそ、スポットを当てています。その点に、多種多様な来場者の方が、共感してくださっています」。

 展示の最後には、感想や多様性に関する意見を付箋で共有するコーナーがある。元記者が残した付箋には「『多様性』は目の前にいる『あなた』を、そして『わたし』を大切にすることから始まります。メディアの中で働く一人ひとりが『あなた』と『わたし』を大切にし、一人ひとりが大切にされる社会をつくる役割を果たしてくれることを願います」と書かれていた。「ぜひ展示をみて『あなた』と『わたし』に向き合ってみてください」と尾高さん。メディアに携わる者だけではなく、すべてのひとの心を熱く揺さぶる企画展だと感じた。

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企画展は5つの章で構成されている。メトロポリターナ2月号、3月号は「第4章 いま、メディアが伝える『多様性』」に展示されている。

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企画展の感想や多様性に関する意見を記載するボード。いつもの来館者と違って、若い人も多い。尾高さんのところには、大学の先生やバスガイドの方などさまざまな働く女性からの共感の声もあったという。


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メトロポリターナ編集長
日下紗代子

声をあげるって大切だ!

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Fem Care Project

「フェムケアプロジェクト」は、産経新聞社が主催する、女性の心と身体の「ケア」を考え、よりよい未来につなげるプロジェクト。女性特有の健康課題や働き方について情報発信をしながら考えていく。


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