女性のココロとカラダのケアを考え、よりよい未来につなげる「Fem Care Project」。本誌編集長・日下紗代子が、さまざまな人にお話を聞きながら、女性の健康課題や働き方について考えていきます。
命に直結する課題
性差が生むイノベーション、日常の中には、新しい技術の開発にあたって、「性差」に着目した考え方が広がってきている。たとえば、自動車のエアバッグ。以前は、衝突実験の人形が男性用のみだったが、女性が怪我を負いやすいなどの指摘を受け、現在では見直されている。このように、科学・技術・政策など幅広い分野において“性差分析”を取り込むことが一般的になり、これを「ジェンダード・イノベーション」という。2005年に米国で提唱された。2月20日から22日の3日間、東京ビッグサイトでは、日本における性差の課題を語り、イノベーションを後押しする「ジェンダード・イノベーションEXPO」が開催される。当イベントを企画したウーマンズの星ノ矢子さんに、私達の身の回りにある性差の課題と、そこに着目することで変わっていく未来について、お話を聞いた。
「そもそも“女性”のヘルスケアに、ヘルスケア業界が注目し始めたのはここ10年くらいです。この2、3年はフェムテック、フェムケアという言葉が広まったことで、女性の健康課題が注目され、その推進のためには男女双方の相互理解が必要という観点から、女性特有の、男性特有の課題として、“性差”そのものに課題があるとの考え方が広まり、『ジェンダード・イノベーション』という概念への関心が高まったと思います。この言葉自体は生まれて15年以上が経ちますが、フェムテックという言葉がなければ、ここまで広がることはなかったでしょう」
星ノさんによると、日本ではなかなか定着しなかった背景があるという。「医療者が救急処置トレーニングに用いる人形を開発している、あるグローバル企業へ取材したことがあります。医療者が実際の現場で女性患者と男性患者、それぞれに対応できるよう人形を男女別に開発しているのですが、発売当初から海外ではよく売れる一方で、日本は海外ほどの反応はないようです。その理由に、人種の多い欧米と違い、日本は属性による不利益や不公平といった感覚があまりないからではと考察していました。ただ今後は、日本人の間にも、男女間のジェンダーギャップ指数の低さが認知されたり、仕事と育児・介護の両立における男女差の課題が浮き彫りになってきたことで、いよいよ性差に着目する企業が日本でも増えていくのではないか、と話していました」
業界の機運を高めるために、
生活者から声をあげていく
「医学の世界では『性差医療』の考え方が広まっていて、日本では20年ほどの歴史があります。この性差に着目する考えが医療以外の業界にも広まってきた今、生活者の間でもこれから徐々に、男女差による不利益や不公平に目を向けていく機会が増えてくるのかなと感じます」
星ノさんは、企業がさまざまな視点でイノベーションを起こす鍵は、生活者ひとりひとりが声を上げることだと話す。「フェムテックというと、よく中高年層の女性に『私には関係ない、若い人たちの話でしょ』と言われてしまうことがあるのですが、これは、フェムテックの対象が、若年層や健常者を前提としている商品やサービスが多いことが影響していると考えています。フェムテックは本来、あらゆる女性の健康課題を解決するもので、そこには、障がいをお持ちの方や、高齢の方など、多様な人の特有のお悩みにも寄り添うものです。もっともっと幅広い領域において、性差による健康問題や行き届いていない医療技術があることを知ってほしい。私たちは業界側がもつ視点として『ジェンダード・イノベーション』という考え方を広めていくことをミッションだと思っています」。
日本全体であらゆる性差の課題に目を向ける機運が高まれば、結果的に、多様な女性の困りごとに寄与していく。この市場が延びている背景には、そうやって、業界側に働きかけ続ける人の存在もとても大きい。星ノさんは、まず家庭内や職場、街中にある小さな性差を意識してみることが大事で、その違和感こそが、企業にとっての後押しになるという。せっかく訪れたこのムーブメントが一過性で終わらないためにも、改めて私たち生活者が、性差に気づき、自分ごととして声をあげ続けることの重要性を感じた。
今回が2回目の「ジェンダード・イノベーションEXPO」。ひとりでも多くの人に性差による課題の重要性を伝えるべく、見て触って体験する出展社エリア、学びのエリア、機運を醸成するためのメディアパートナーエリアの3つのエリアを展開。世の中にはさまざまな領域で性差があることに気づき「自分が所属する企業に持ち帰ってほしい」と星ノさんは話す。
EXPOの詳細はこちら
https://womanslabo.com/genderedinnovation2024

メトロポリターナ編集長
日下紗代子
身近な“性差”を感じることが第一歩
EXPOでいざ体感!
Fem Care Project
「フェムケアプロジェクト」は、産経新聞社が主催する、女性の心と身体の「ケア」を考え、よりよい未来につなげるプロジェクト。女性特有の健康課題や働き方について情報発信をしながら考えていく。